孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

2023年5月に読み終わった本リスト

一カ月以上前からうっすら読んでいたマスターアルゴリズムをようやく読み終えた。かなりの巨編だが、非常に重厚で面白い。

 

基準:

  • 当該月に読み終わった本が対象(※読み始めたのがその月とは限らない)
  • 最初から最後まで目を通した本を『読み終わった』と定義

 

昨月の記事:

2arctan-1.hatenablog.com

 

目次:

 

推計学のすすめ 決定と計画の科学 (ブルーバックス)

いつぞやのkindleのセールで購入したものを放置していて、ようやく読んだ。統計学には観測された結果を説明する『記述統計学』とデータの背後の母集団を推測する『推計統計学』を対象としている。記述統計学は以下の記事などを参照。

 

ai-trend.jp

 

平均や分散などの統計量、仮説検定のやり方や採用方法などが小話と共に話されていて読みやすい。昭和の時代の本なのでデータや話の内容は古さを感じるが、基本的な内容には普遍的さがある。いかにもブルーバックスって感じの本。

 

 

マスターアルゴリズム 世界を再構築する「究極の機械学習

ページ数は多く内容もヘビーだが人工知能に纏わる技術、トレンドや歴史などを学びたい人は読んでおくべき本。

機械学習分野の流派を記号主義者、コネクショニスト、進化主義者、ベイズ主義者、類推主義者の主に5つの学派に分けてそれぞれの特徴を紹介している。原著は2012年程度に刊行されたはずなので少し深層学習関連の話がレガシーではあるが、注釈などで一応最近の内容について補足はされている。人工知能の技術流派に関してこれだけ広い範囲を対象に歴史や関係性、メリットデメリットを解説している一般書は自分の知る限りないので、とても価値があると思う。

それぞれの学派のアルゴリズムを統合し、長所を組み合わせた汎用的なマスターアルゴリズムの構築を目指すというのが本書の主題となっている。10章あたりで解説されている著者が考案した類推と論理を組みあわせたという手法RISEに関しては難しくてまだよく理解できていない……。

今現在隆盛を誇っている深層学習は区分上は『コネクショニスト』の流派に区分されており、この本の当時にはなかったLLM(大規模言語モデル)が台頭している。現在の潮流を踏まえたマスターアルゴリズム2023が読みたいところ。到底気軽に読める本ではないですけど、オススメです。

 

 

 

一汁一菜でよいと至るまで(新潮新書

土井善晴先生の現在に至るまでの来歴が記載された一冊。

読んでいくと著名な料理の先生である土井勝先生の息子として生まれ、大学時代にスイスのローザンヌに留学しホテルで修行、帰国後大学卒業まで神戸のフレンチ店で働き、その後フランスのリヨンで修行、帰国後父の料理番組を手伝う中で日本料理を学ぶために味吉兆で修行、そして父の料理学校の講師を務める――と土井先生はとんでもないスーパーエリートであることがわかる。生まれの良さと様々な料理・文化に触れた土井先生の上品な人柄がいかにして形成されてきたかが本書を通じてよくわかる。

ハレの日のごちそうと普段の家庭料理の役割は違う、具沢山の味噌汁とおかず一品の一汁一菜でいいという主張は土井先生の深い経験から得られた発言だと感じられた。

 

 

産業用ロボットの応用

大学院時にブックオフで買って実家に放置していたものをゴールデンウイーク帰省時に流し読み。応用と言ってもロボットの応用的な理論や技術の話はなく、実際に工場に導入された事例集がほとんどである。一応1章で工場にロボットを導入するまでの要件の決め方が簡単に解説されてる。その後の2,3章では実際の企業のロボット導入事例が延々と、全体の2/3くらいのページ数をかけてひたすら紹介されている。1979年とかなり古い本であるため、今はない企業や工場の事例もちょこちょこ入っていて時代を感じる。

 

 

 

加工学基礎 (4) 工作機械と生産システム

こちらもブックオフで買って放置してたのをGWでざっと流し読み。昔はBtoBの工作機械とかに興味あったんです……(今も興味はありますけどね)。

こちらは最初の数章で工作機械の定義とか基本的な加工理論等がきちんと解説されて、後半に工作機械等を組みあわせた実際の生産システム事例が色々記載されている。この本も1985年とかなり古い本なので、事例に挙げられている企業や工場がたまーに潰れていたりしている。

 

 

 

 

最新 AI・デジタル業界大研究 (業界大研究シリーズ)

Amazonでの評価が★1台で、かつ21年発売のかなり新しい本なのに100円でブックオフでたたき売りされていたので、逆に気になってざっと読んだ。

読んでて印象に残った/役に立った箇所はゼロ。AIおよびデジタル関連の専門家ではなく人材関係の業界人たちが集まって書いたからか、ふわっとしたネット知識レベルの業界動向(NAVERまとめレベル)が書き散らかっていて、ソース不明の記述がありもちろん参考文献などはまとめられていない。

 

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↑一番ヤバイなと思った箇所。なんのソースや根拠ももなしに量子コンピュータの計算速度は古典コンピュータの1/1024になると書いてある。

 

Chat GPTの発展で真っ先に駆逐されるべき類の、人力hallucination本。

 

 

 

文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要

図書館で借りて読んだけど、タイトルから受ける印象とは真逆の「しっかりしてる方」のAI本だった(一見まともそうだけど内容ヤバいAI本は結構あるので)。

本書では要するにフルスクラッチでの技術開発・システム構築など高度な理数的素養が必要そうな仕事以外のAIに纏わる仕事をすべて文系AI職として定義している。実質的には理系人材も含めて(文系)AI人材になる、といった内容で対象範囲の広い本と言える。

AIの用途を代行/拡張型の2種類、AIのタスクを識別系/予測系/会話系/実行系の4種類に分けた2x4のカラムに分類してAIプロジェクト事例を紹介しているがかなりすっきりしていて中々わかりやすい。この手の『タイプ分類』はAI系のビジネス書では必ず出てくるのだが、ここの分かりやすさにかなりセンスが出る印象(逆にそれ以外の数式を使わないAIの技術概要みたいなのは同じような説明になりがちなためあんまり差が出ない……)。

 

 

 

マンガ『石ノ森章太郎超電導講座』

漫画なんだけど、半分くらいは超伝導(本書では超電導で統一されているが)の研究・応用開発事例が載ってるので一応読んだ本としてカウント。

超電導の研究トレンド(漫画中の舞台の研究室は多分東大の田中昭二研究室だと思われる)、リニアモーターカー、電磁推進船などの超電導技術応用の話や中国の超電導材料を精製する工場、超電導線を作る古河電工の取材、その他日立や住友電工らの超電導にまつわる特許や学会発表の研究動向など昭和の研究が漫画で読みやすく解説を交えて纏められていて面白い。

リニアモーターカーはともかく電磁推進船って全然聞かないなと思って調べたらエネルギー効率が古典的な船と比べて明らかに劣るから結局ポシャったらしい……。

 

 

理工系N教授のつぶやき

神保町の古本屋で売られていたもので、教授を退官した著者が国立大~私大教授を務める中でのエピソードを徒然と匿名ながら赤裸々に書き綴ったもの。公害対策委員会として対応した水俣病などの環境評価の話、学内での教授会の根回し、企業や役人とのやり取りなどの戦後〜高度成長期のブラックな大学エピソードが書かれており面白かった。昭和の話だから当たり前のように学生運動で大学は荒れるし、偉い教授先生を怒らせるとちゃぶ台返しが起こるし、企業は賄賂とかヤクザを使って何とか要求を押し通そうとしてくる。
特筆すべきは水俣病の環境評価プロジェクト評価でメンバー同士が揉めて教授脱退し、バタバタしつつも環境評価が完了する直前に公害発生元の企業から収賄が贈られてきたエピソード。色々とやばすぎる。

 

 

僕が「化学者」になった理由(わけ)―マー兄ちゃん、教育・家族・環境を語る

これも神保町の古本屋で面白そうだから購入した一冊。ビートたけしの兄で大学教授の北野大氏から見た北野家の話や家族論、環境論などの話が書かれている。しきりに弟は別格だ、凄いと書いていて近くで見ていたが故に感じるものはあるのかなぁと思った。北野大自身も明治大出て、製薬会社の応用研究部門入って、基礎研究やりたくて辞めて都立大院入り直して博士号とって何やかんやで教授やってるエリートな訳だが。

北野家の母は教育ママで行く大学の学部まで指定されていて、北野大は国立大文学部受かっていたけど進学を認めて貰えず明治大の化学系に進学したとか。昭和の家庭だな〜。

 

 

 

【この1冊でよくわかる】ソフトウェアテストの教科書―品質を決定づけるテスト工程の基本と実践

ソフトウェアテストに関する方法などが一冊にまとまった本。基本情報技術者試験とかで抑えるテスト手法やカバレッジのお話だけでなく、ドキュメントの方式やモニタリングの話やどのテストを適用すればいいかのチャートなども載ってる。教科書的なテストに関するトピックは一通り広く浅く学べる印象。

この本を執筆したのはテスト専門の会社の人達らしい。会社が気になってオープンワークで調べたら評価低かった(どうでもいい余談)。