孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

2024年2月に読み終わった本リスト

もう3月も終わりなんですってね。

 

基準:

  • 当該月に読み終わった本が対象(※読み始めたのがその月とは限らない)
  • 最初から最後まで目を通した本を『読み終わった』と定義

 

昨月の記事:

2arctan-1.hatenablog.com

 

目次:

 

 

林業の魅力と専門職大学

静岡県立農林環境専門職大学の教員たちが、専門職大学の教育ならびに実践的な農林業教育や内容について記した本。たまにこういう全く自分と関係ない本を読みたくなるんだけど、面白かった。『専門職大学』とは2017年度に制定された新しい学校形態(そんな新しいものだったのか)であり、四年制かつ大学より実学・専門教育に重きを置いてカリキュラムが制定されているらしい。

3部構成で第1部は流通・加工・経営に至るまで総合的に学び県の農業従事者として進むための教育カリキュラム周辺に関する話、2部はいちごの品種開発、メロン温室栽培、畜産や林業などを例とした実習に関する話、そして3部は地域貢献や農業文化、国際交流(特に先進的なオランダの専門職大学による研究&農業技術の還元の話がメイン)についての話がそれぞれ述べられている。

第2部の5章で書かれているいちごの品種開発については、あの紅ほっぺを開発した人の話が書かれておりいちごの品種改良の苦労から栽培・流通の整理、新品種として普及するまでの話が事細かに書かれている。この章は特に面白かった。

 

 

 

アグリカルチャー4.0の時代 農村DX革命

著者は日本総研コンサルタントたち。農村DXという農業AIのアイディアを発展させ、農村生活圏全体でDX化を進めるような取り組みについて書かれている。

農業従事者の高齢化、耕作放棄地の増加などの問題と規制緩和に伴う農業の法人化傾向について触れ、日本のスマート農業技術の発展・DX化を通じて儲かる農業→誰でもできる農業→安心できる農業→ラストリゾートとしての農業、と4ステップでの事業実現を目指している。

この本は日本総研コンサルタントが書いたと言ったが、筆者らは実際にMY DONKEYと呼ばれる多機能農業ロボットの開発に携わっておりライターが書いた本と比べるとテクノロジー面での解説も一歩深く読みやすい印象を受けた。

 

 

 

偏差値70からの甲子園 僕たちは野球も学業も頂点を目指す (集英社文庫)

名前に惹かれて購入。厳密には偏差値70以下の高校もあるが、公立進学校の強豪校野球部について取材した一冊。取材されている高校は松山東済々黌(熊本)、彦根東時習館(愛知)、青森、佐賀西。いずれもその県に住んでいる住民なら誰もが知る名門公立高校であることは間違いないと思う。

インタビューを通じて、強豪公立高校野球部に共通するのは練習時間の少なさと、選手たちの自主性をチームの基軸にしているところだった(そうしないと強豪校に勝てないという発言がありなるほどと思った)。彦根東高校はグラウンドが極めて狭いから日毎に色々な場所に移動して場所に応じた練習を集中的に行ったり、佐賀西高校ではおにぎりなどの捕食を行い選手の線を太くしたりなど、高校独自の工夫や性質も面白い。

この本でひとつとても残念なのは、インタビュアーである作者に大学受験の知見がなさすぎることである。自身が筋肉バカだったという前書きもあるしスポーツ専門のライターなので仕方ないとは思うが、選手や監督のインタビューに対する回答も野球に関しては上手く聞き出せているが、受験部分との両立に関しては『やっぱり頭のいい学校は違う』程度の安い感想に終始して深い質問ができていない。受験経験とスポーツ経験を両立したインタビュアーが書けばこの本はもっと面白くなっただろう。

 

 

 

企業研究者のための人生設計ガイド 進学・留学・就職から自己啓発・転職・リストラ対策まで (ブルーバックス)

安かったのでとりあえず買ってみた。

タイトルから今現在企業に務めている研究者がこれからどのようにキャリアを描いていくか、ということに主眼を置いた本かと思いきや大学院生に向けて企業研究者(それも筆者が勤めていた製薬企業関連のみ)について自身のキャリアをベースに語るという本だった。タイトルとのミスマッチが中々だと思う。著者自身の来歴はまあ面白かったのだが、キャリア形成に役に立つかと言われたらすでに社会人の読者はもちろんNOだし、大学生が見てもあんまりではないかと思う。

 

 

 

建設テック革命 アナログな建設産業が最新テクノロジーで生まれ変わる

効率化が遅れている建築業界のICT化、DX化がいよいよ本格的に進んでいるぞ!って感じで色々技術やゼネコン業界の動向を紹介する1冊。カラー刷りで全体的に見やすい。

2025年までの10年間で約1/3の職人が建設業界を去るとの予測が出ており、ドローンによる測量、三次元データを活用した建設プロジェクトの効率化、ロボット、AIによるインフラ維持管理、スタートアップ企業による建設産業の新規サービスが語られている。

本書を踏まえ、建設業界の近況を調べたところ、2015→2022年度時点で330→300万人程度と意外と減っていない印象だったが、よく調べてみると外国人労働者の力を借りているからのようだ。

本書は建設テックを活用して日本人だけで作業を行うことを暗黙の前提にしている節があるが、現場からしてみればテクノロジーの発展を待つよりも安く買い叩ける労働者を持ってくることが現実解になってしまっているのだろう……。

 

www.nikkenren.com

 

willof-work.co.jp

 

 

 

AI時代の企業戦略: 第4次産業革命IT技術に基づく

スタジオアリスの副社長でもある著者による、経営観点から人工知能の活用について書かれた本……という触れ込みだが、実態は人工知能が重要となるポイントは本書中には存在していない。

本書は二部構成になっており、第一部は産業革命を振り返りつつ第四次産業革命により何が変わりうるのかっていうことをツラツラと書いている。ICTの普及によりタブレット化するとか、AIが各所に導入されていく~とかどこにでも書いてあることが書かれており読む価値は低い。細かいところだけどIoT(Internet of Things)のことをずっと大文字でIOTと書いているのが気になった。

第二部はスタジオアリスの歴史や戦略の話で「何故スタジオアリスが業界トップになれたか、それが普遍的な条件かを10の仮説から検証する」とかいう冒頭でワクワクしながら読んでいったのだが、仮説検証と称しているそれはただの後出しじゃんけんだった。もうこの部分はさすがに酷いので下記を見て雰囲気をつかんでほしい。

 

 

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まず仮説が仮説の形にすらなっていない。なんだよ「成長の罠」に嵌るなって……

 

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後から分析した結果を仮説と合うか持っていくようなやり方は『仮説検証』と言えるのか?また、分析は下に書いてあるレベルでしか行われておらず、そもそも仮説通りだったかどうかすらの結果が書かれていない。

 

 

その後はスタジオアリス成り立ちから現在までの歴史が書かれている。正直読んでいて面白かった(知らなかったことが知れたという意味で)のはこの部分だけである。

ハードカバーでサイズも大きく、AI×企業戦略についてプロが書いた意欲的な本であることを期待したのだが、相当ひどい本だった……。

 

 

 

ヒトは生成AIとセックスできるか―人工知能とロボットの性愛未来学―

タイトル詐欺……とまでは言わないけど「ChatGPTとセックスできるか!?」みたいな帯に書かれている内容の話はほとんど出てこない。基本的にはセックスロボットの是非についての周辺が書かれた本。

セックストイやロボットなどの歴史やテクノロジー、その是非についてめちゃくちゃ真面目に10章くらいで書かれている。筆者はイギリスの学者かつフェミニストでもあり、数々のテクノロジーや先行研究に関する批判をその両輪から遺憾なく発揮している。英国をはじめとする主に欧州のセックスロボットに関する動向や議論を知れたり、ちょっとためになる(使えるかはわからない)エロ豆知識が知れたりしたので個人的に結構面白かった。ただ、読みやすい本ではないだろう。

電マが日立の米国会社から販売されたものであるとか、コーンフレークの発明者がマスターベーション反対過激派であるとか、おもろい話は沢山転がっているので気になった方はぜひ。

 

 

 

プロジェクトのトラブル解決大全 小さな問題から大炎上まで使える「プロの火消し術86」

kindleunlimitedで読んだ。トラブル解決の極意その一が「まず腹を括ること」から始まる、とても信頼できる一冊である。まず第一に他責になるな、自分事として腹を括らないとどうにもならないというところから始まるのは説得力がとてもあると思った。

炎上プロジェクトでは時間も予算もないから仮説検証ベースで進める、無駄な会議は減らして必要な会議は必ず継続する、計画はゴールからマイルストーンを刻んで何とか立てる、バッファを最後に積む、こまめに上長に報告を上げて不要な報告会を減らすなど、やりきるにあたって重要な仕事から取り組む方法/無駄な仕事を増やさない方法の両輪から86のテクニックが凝縮されている。

炎上プロジェクトは人を成長させる、嵐の中の船と静かで何もない海の中の船のどちらに乗りたいですか?って後書きにあったけど、それは普通に何もない方やろとは思った。

 

 

 

飛田をめざす者 「爆買い」来襲と一〇〇年の計

kindleunlimitedで読んだ。この筆者は元々普通の営業マンから転職して飛田新地の料亭の経営者・スカウトを経験した人物であり、本書は『飛田で生きる』『飛田の子』に次ぐ三作目となる。本書が出された2016年に飛田新地は100周年とのこと。

筆者はしばらく飛田を離れ実家に家族とともに戻っていたが、店を引継いだ後輩経営者の依頼を受け姉系通り(年齢層の高い嬢が在籍している通り)の店をもう一度受け持つことになる……というあらすじ。

1,2作目では舞台がメイン通りのお店であったこともあり姉系通りとの価格・地価・利回りなどの差や客層の違い、そして前作までと期間が空いていることもあり昔は成り立っていたスカウト経由の女の子の紹介ビジネスが成り立たなくなってきていることや中国人観光客の台頭や客寄せに向けた筆者の取り組みが書かれている。

この本の後書きで著者の奥さんが元飛田嬢であることが初めて判明し、意味が分かると怖い話みたいになっているのが面白かった。

 

 

 

ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす ビッグデータの残酷な現実―――ネットの密かな行動から、私たちの何がわかってしまったのか?

表紙にでかでかと著者の写真が映っている本はゴミの法則を覆す一冊。正直期待していなかったけど面白かった。表紙に写っている『ハーバード数学科のデータサイエンティスト』は米国で主流となっているOk Cupidというマッチングアプリの共同創業者。マッチングアプリを通じて出てきた人間の本当の気持ちが剥き出しになったビッグデータをベースに様々分析している。

よくネットで出てくる女性は自分と同じ年齢の男性を望むが、男性は年齢にかかわらず20歳前後の女性を探すなどというデータも恐らく元はこれだと思う。それ以外にも評価点の分散が高い(好き嫌いがはっきり分かれる)ユーザーの方が人気、顔を隠してマッチングする実験をしてみたら実はデートの満足度が変わらなかった、など色々と男女の集団的な傾向があり面白い。それだけでなく、人種による差異や性的嗜好による差異もデータ分析から可視化されており読みごたえは十分。ウザ過ぎないレベルのアメリカンユーモアを交えた本なので、ほとんどの人がサクサク読めると思う。おすすめ。

この本はちゃんと面白いのに、邦題のタイトルと表紙で損していると思う。