孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

2023年4月に読み終わった本のリスト

4月は特に企業に紐づいた著書をたくさん読んだ気がする。

 

基準:

  • 当該月に読み終わった本が対象(※読み始めたのがその月とは限らない)
  • 最初から最後まで目を通した本を『読み終わった』と定義

 

昨月の記事:

2arctan-1.hatenablog.com

 

目次:

 

謎解き音響学

音響学の内容が短いトピックに分けられて、初学者にもわかりやすいように解説されている。人間の耳はどうやって音を聞き取っているか、音の高さや大きさはどう決まるか、どう伝わるかなどの基礎的な話から、音を制御するためにはどうすればよいか、どう評価を実施するか、騒音対策に至るまで一通り書かれている。

物理的な話はまあそんなもんだろうな〜と思いながら読んでたけど、人間の感覚に基づく法則などの感応的な話は結構面白くサッと読めた。

 

 

田宮模型の仕事

ミニ四駆、模型などでお馴染みのTAMIYAこと田宮模型がどのように成り立って今に至ったかが書かれている。かなり面白く、TAMIYAのプロの仕事が感じられて読み応えがあった。

田宮模型は筆者の父が創業した静岡に多数ある模型屋さんの一角だが、木材工場を自分で持っていたが故に木製模型の廃りからプラモデルに乗り遅れる、工場が火災で全焼するなどトラブルが相次ぎ倒産の瀬戸際の中を潜り抜けた筆者の苦労が伝わる。筆者は大学時代から父の会社の客先に取り立てに行ったり、手探りで木製模型のプロト作製やプラモデルの金型設計のノウハウを導入したりとめちゃくちゃ若い頃から色々やっててシンプルに超すごい。後述する三洋電機井植敏氏もそうだが、父親が社長で創立してそれほど経ってない会社で働くのはとても大変で同時に様々な経験を積めるのだなぁと。

1からプラモデル事業を立ち上げる苦労話、プラモデルを精巧に作るための世界各地への取材、F1のホビーを本田宗一郎に褒められた話、そして大ヒットのミニ四駆の生誕秘話など文庫本サイズの中にぎっしりTAMIYAの凄さが詰まってる。

 

 

 

三洋電機よ、永遠なれ!

三洋電機の元会長であり創業者井植歳男の息子である井植敏氏がジャーナリスト片山氏と対談形式で三洋電機の来歴やパナソニック子会社化以降の展望などをかなり赤裸々に語っている。

井植敏氏は良くも悪くも関西の昔気質のおっちゃんという感じの語り口で、思い切り序章で後継者の指名の人選ミスを明言していたり後継者が自分の意見を聞きに来ないことに暗に苦言を言っていたりと中々ぶっちゃけている。また、中韓などへの技術流出に関しての意見はかなりガードが緩い印象を受ける。(父敏男も商売敵である松下幸之助二次電池の企業秘密盛り沢山の工場を見せたエピソードがあり、この影響もあるのかもしれない)

松下電器から独立して自転車ライト事業から始まった三洋電機の歴史についてはまあ調べれば出てくるような話なんだけど、父の急逝後の淡路島でのフェリー会社の清算の話やテレビ事業に関する米企業との交渉や販路確保、石油ストーブや太陽電池事業で相次いだ不祥事の火消しなどの苦労話はおもろかった。

 

 

 

広告をナメたらアカンよ。

コピーライターの筆者が、様々な広告のコピーを題材に、その時代の背景やメッセージ性などについて論を展開する。そのコピーに携わった関係者による話もトピックごとに盛り込まれており、短い1文の向こう側にある思想や時代や社会を感じられる1冊。

広告は生物であり、消費期限がある。

広告はその時/その場/その時代の人/社会/文化が作るものである。

あたりの発言が本書のベースであると思われる。

この観点を持って日常で触れる広告を見ていくと毎日が豊かになりそうな気がした。

 

 

 

「ビル」を街ごとプロデュース---プロパティマネジメントが ビルに力を与える

三菱地所グループ三菱地所プロパティマネジメントの会社PR本。

三菱地所プロパティマネジメントは、三菱地所グループ内外の不動産の管理、メンテナンスだけでなく周辺地域も含めたプロモーションも手がけておりこのノウハウが同業他社にはない強みらしい。

東北大震災時の対応、横浜ランドマークタワー周辺開発、丸の内再開発、イルミネーションの展開などの事例が各章で紹介されており、ただ単に所有する不動産を維持管理するだけでなく、中長期的に価値を高めるようにテナントやビル所有者、利用客を含めて総合的なマネジメントを行っている!ということが本書では強調されている。また、PR本の側面からか在籍社員の話と写真も多数載っている。

この本でいちばん面白かったのは、三菱地所グループは丸の内以外の担当区域のことを『丸の外』と呼んでること。

 

 

 

ソフトウェア・グラフィティ

日本で三番目の独立系ソフトウェアハウスであるSRAの成り立ちや歴史を創業者のひとりである岸田孝一氏が振り返り書き起こしているのが全体の2/3、残りの1/3はSRA在籍の社員によるソフトウェア関連や事業に関するお話。

岸田孝一氏は芸術に造形が深いようで、直木賞でいい所まで行った〜学生時代に携わった同人サークルにいた人が作家になり〜など語り口が若干鼻につくがまあすごい。ともあれ、計算機としてのコンピュータが普及し日本にプログラマという職業が起こる黎明期の話が語られており、このような話を当事者の視点で読めるのはかなり貴重だと思う。パンチングカード時代のデバッグの話とかかなり面白かった。

後半の会社に関するトピックはなんと言うか、会社のパンフレットとかに載ってそうな内容。

 

 

 

ハードウェア・ハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険

ハードウェアベンチャーに何社も携わってきた著者による、中国深圳の工場の話、ハードウェアのハッキングの話、ベンチャー設立の話、オープンソースの話など広範なトピックが網羅された1冊。

特筆すべきがどのトピックの話もめっちゃ面白いということである。中国のベンダーから仕入れて不具合のあったSDカードをバラして模造品のカラクリを調べたり、法律に触れないようにオシロスコープによる信号解析をやパッケージを溶かして顕微鏡で回路観察、果てはウイルスのDNAコードを解析してハッキングするツールの話まで、技術面のトピックは文句無しに面白い。

それだけでなく筆者が携わった3つのベンチャーを中心とするハードウェアでベンチャーをどう成長させていくかの話、『安く』製品を作るためには欠かせない中国深圳の工場の製造現場での苦労話や交渉術、そしてBOMやハードウェアの設計図などの情報がガンガン違法で上がりまくり、安値で模造品が作られまくる山寨(Shanzhai)文化とそれによるイノベーションの話など、ものづくりにアンテナを少しでも張ってる人間ならワクワクするトピックが目白押し。

メーカーに入った社員の人とか、工学部とかに在籍する学生は特に読むべき1冊だと思う。おすすめ。