3月は猛烈に仕事が忙しかったので、4冊。
伊藤忠の本の量がかなりあったのもありますが……。
基準:
- 当該月に読み終わった本が対象(※読み始めたのがその月とは限らない)
- 最初から最後まで目を通した本を『読み終わった』と定義
昨月の記事:
目次:
西成で生きる この街に生きる14人の素顔
西成を中心に生活や活動をしている様々な業種の人たちのインタビューをもとに作られたルポ。労働者の手配師、ドヤの管理人、介護事業者、NPO法人などのライフラインを支えている人から中国人系不動産社長、泥棒市の売人、元暴力団組長、教会の神父まで幅広いメンツになっている。
西成という街は危険でダークなイメージがあり、それは様々な人のインタビュー事情からもまあその通りだったがそれ以上に寄る辺のない高齢者の集まりであり、あくどい事業者と(少なくとも)善意を持って西成を支えていこうとしている事業者のせめぎ合いであることがわかる。
伊藤忠――財閥系を超えた最強商人
近場のでかい書店の注目コーナーに置いてあり気になったので購入してみた。初代伊藤忠兵衛の繊維卸売業から始まった160年余りの伊藤忠の歴史を「他商社、日本全体の時代」も例に出して比較しながら俯瞰できる一冊で、読むのに労力はいるがその分得られるものも多い。
経営者個人としての説明が特に分厚いのは二代目伊藤忠兵衛と岡藤正広。日露戦争~第二次世界大戦終戦までの繊維商社から総合商社に成長していくまでの経緯を二代目忠兵衛、伊藤忠は今後どのような方針・事業を進めていくのかが岡藤の取り組みを中心に数章にまたがって書かれている。その他、高度経済成長期やオイルショックなどの事象を通じて伊藤忠が伸ばし始めた事業のトピックも充実。
総合商社そのものに興味がある人はもちろん、商社の事業はたいてい日本産業の動向に直結しているので、色んな人が読む価値がある本だと思う。クソ情報量は多いけど……。
超精密マシンに挑む: ステッパー開発物語
ニコンでステッパー(厳密ではないかもしれないが、要するに半導体露光装置のこと)を開発し社長も務めた吉田庄一郎氏のいわば自伝のような一冊である。ニコンの傍流部門で燻っていた著者がステッパーの国内初製品化に成功し花開いた話と、著者が晩年社長となった時に実施した会社の事業部の再編成、人員整理、特許論争あたりの世知辛いエピソードも書かれている。昭和のメーカーのイケイケドンドンで奔放な開発・製造現場のエピソードが色々あって「ものづくりって楽しそう!」とこのエピソードだけ見た中高生等は思うかもしれない。
著者の日本光学に入るまでのエピソードが壮絶で、父の営んでいた数万人規模の時計会社が破産した、戦時中疎開のための電車が出発した一時間後に東京を大空襲が襲ってギリ命拾いした、などニコン本編のエピソードを食うくらいのインパクトがある。
著者はステッパー開発前は元々大型天体望遠鏡の設計に従事していたのだが、数年かけて完成した大型望遠鏡を嫁に見せびらかすために新婚旅行ついでに岡山の天体観測所まで連れて行ったという理系オタク丸出しのエピソードが個人的にめっちゃすきだった。
京大変人講座―――常識を飛び越えると、何かが見えてくる
京都大学に対して世間が持つ(と言われている)変人さを押し出して、一見役に立たないような変な研究をまじめに解説するのが趣旨と思われる一冊。
冒頭の山極元京大学長と越前屋俵太の対談で「東大は官僚養成を目的で作られた大学である一方京大は研究者を育成するべく欧米の自由な校風を参考に生まれた大学であり~」などとイキっているが、個々の章はそれぞれの教員の普通の研究紹介である。多分東大でも別の大学でもこんなちょっと変わった研究してる人沢山いるだろうと思うし、紹介を行う研究者自身の人となりやエピソードはほぼ掘り下げられないので『変人講座』というより『変な研究紹介』なのでは?と思った。
各章の内容に関してみると、山内裕教授の高級寿司屋の大将は不愛想なのになぜ繁盛するのか?という問いから始まるサービス関連の研究の話が特に面白かった。一方、宇宙物理学とかカオスとかリスク関連の研究トピックはいろんな本で見たことがあったので個人的には目新しさがなかった。まあ語り口が平易で読みやすいので、科学系の本読んだことない人は楽しめるはず。