孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

2023年1月に読み終わった本リスト

本年度からは月単位で読み終わった本をまとめていくこととします。

備忘録にもなるし……(読んだ本についてある程度メモはとっているけど埋もれがち・共有しないので)。

 

基準:

  • 当該月に読み終わった本が対象(※読み始めたのがその月とは限らない)
  • 最初から最後まで目を通した本を『読み終わった』と定義

 

目次:

 

これだけは知っておきたい数学ビギナーズマニュアル(第2版)

数学書などを読む上で諸学者が引っ掛かりがちなポイントや用語・構成などについてまとめた一冊。

数学記号や変数名を用いる上での暗黙の了解や、現代の数学体系は基本的には集合論の性質が前提となっている、などの実学的な知識もあれば、『明らか』という言葉は実は自明でなかったり間違っている場合もあるので注意が必要、数学書は20~30ページが一番難しく感じてそれを超えると楽しくなってくるから頑張れ!などといった優しい言葉まで載っている。この本を大学入る前に読んでたらもっとまじめに数学の授業に出席していたかもしれない。

 

 

兵庫医科大学創設 森村 茂樹 奉仕と、愛と、知と

ブックオフ珍書発掘隊参照。

 

2arctan-1.hatenablog.com

 

缶コーヒー職人

自販機設置バブルが落ち着き、缶コーヒー事業で後れを取っていたサントリーがBOSSブランドを立ち上げ、定着させていった一連の経緯が書かれている。

開発部だけではなく広告や営業、デザイン部など部門を横断した一大プロジェクトとして進めたこと、通常の開発期間の倍以上かけて徹底的なマーケット調査を行いヘビーユーザーであるブルーカラー男性層に刺さるような味・デザイン・広告を打ったこと、など『誰に向けて作る』のかを明確化して作りこんだのがBOSSの成功の秘訣のようだった。BOSSのブランドが確立した後自家焙煎子会社の設立に動いたり、現地の農家組合と交渉してグアテマラ産のコーヒーやエチオピア古来の手法で作られたモカを日本に導入したりと、BOSSの成長拡大の話も面白い。

 

 

あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか?

バンカラと昔は言われていた明治大学が人気大学・受験者数ランキングのトップレースに名を連ねた秘訣を関係者や学生などに取材した一冊。

色々理由が書かれているが記載されていた中だと、全国で初めて全学部統一入試を学部共通問題で導入したこと、他大学に先駆けて21世紀的な新学部を打ち出したこと(情報コミュニケーション学部、国際日本学部、総合数理学部)、そしてちょうど広告を打ち始めた時期に明治大学卒のモデルやタレントが次々出始めたこと、の影響が特に大きいと思われる(明治大学は元々有名大学であり受験生に便利な受験方式や魅力的な新学部の設立はかなり効力があると思われるので)。

この本が出た年の最新年度の志願者数ランキング1位は近畿大学なので少し本としての説得力が弱いのが悲しい。ちなみに似たような内容の近大の本も出ています。

 

 

単体女優

長年AV女優としてトップの座に君臨し続けた吉沢明歩の自伝。ちょっとポエミーなところもあるが、彼女がいかにプロ意識が高い女優だったのかが読めばよく理解できるし、見事にダメ男ばかり彼氏にしていてより好きになると思う。

後半にある自身の出演した良かった作品、悪かった作品を評している部分はかなり色々ぶっちゃけていて面白いので、彼女にお世話になったことのある人は必見。

 

 

ソフトウエア開発プロフェッショナル

ソフトウエア工学がまだそこまで浸透していない時代に書かれた結構古い本だけど、普遍的なことが書かれている。

要するに行き当たりばったりの開発はやめよう、ソフトウエア工学をしっかり学ぼう、組織にプロセスをしっかり普及させよう、ソフトウエアエンジニアも他の技術者同様資格を一部必須にしよう、という内容。著者の語り口とユーモアが面白いので量の割にはさっと読めた。

 

 

キーエンス解剖 最強企業のメカニズム

昨年末くらいに出たばかりの新書。かなり面白かった。

社史を出さないキーエンスの歴史や強さの秘訣をキーエンスのOBや協力会社、過去の取材文献などをベースに一冊にまとめられている。月単位でKPIごとに順位と数字がフィードバックされる徹底的なデータ収集・可視化、日単位でロールプレイングを繰り返す日常的な演習、顧客先からのヒアリングによるニーズの吸い上げなど「そりゃこれを徹底できたら強いけど……」みたいな事項を平然と全社的に実施できる体制が整っているのがめっちゃすごい。自分のような雑魚サラリーマンは読み終わった後キーエンスの凄さが怖くて夜通し震えが止まらなかったので、心臓の弱い・自分に甘い人は読まない方がいいのかもしれない。

 

 

情報理工学のすすめ (新・数理工学ライブラリ 情報工学)

今の情報系ブームの煽りを受けて高倍率で大人気の東工大情報理工学研究科が10周年の時に記念で出版された本らしい。ブックオフで格安だったので縁もゆかりもないけど買って読んでみた。

「情報」をキーワードに在籍する教員が割と好き勝手なテーマで書いた章が集まっており、情報学的な話や全学教育活動の沿革、高校生向けのスパコンコンテスト実施などのこの手の本にありがちな教育的内容やCG・マルチメディアの研究トピックがあるかと思えば、意外にもエジプト調査の考古学的な研究成果やキリンの生態学的研究とか人文・生物学的な話も混じっており、果ては怪文書、もといポエム、もとい哲学的な文章までさまざまだった。まあ情報理工学といっても色々あるんだなー……という雰囲気を楽しめた。

 

 

人工知能が俳句を詠む: AI一茶くんの挑戦

2017年から北大の研究室で始まった俳句生成AI「AI一茶くん」のプロジェクトの活動がまとめられた一冊。

俳句を生成する行為自体は昔からある自然言語処理モデルを応用して、俳句の教師データを食わせまくればそこそこできるようにはなるのだが、お題に沿って詠む、出てきた膨大な句の中から「良いもの」を選ぶのがとにかく難しいらしい。一般書だから概念だけの説明にはなるけど、今をときめくChat GPTのルーツであるGPTでやってることの解説も一応ちょびっとあったりする。俳句AIの歴史とかは結構面白いので読んで損はないと思う。

 

 

 

サイエンティフィック・リテラシー 科学技術リスクを考える

東北大震災がトリガーになった系の一冊。「正しく怖がる」ためのリスクの考え方が具体的な統計データを元に語られている。リスクが定義によって変動しうるものであるという一般人が忘れがちなことを厳密かつ遠慮がちな科学者的な文章で書かれており参考になる。まあ読み物としては文章が退屈で全然面白くないのが欠点である。この本に書いてある内容を理解してほしいような層は多分冒頭で読むのを辞めるだろうと思う。

 

 

 

左対右 きき手大研究 (DOJIN文庫)

自分自身が左利きであり、利き手に関する雑学とか色々知ってたら面白いなと思って読んでみた。

結構古い本だし、この手の心理学的な要素が絡む学問でありがちな「それって統計学的に有意って本当に言えるの?」とか「母集団少なすぎない?」みたいなポイントがちょこちょこある。けど、利き手に関するトピックがまとまっていて結構流し読み程度で読むと面白い。

ちなみに『左利き短命節』の元となった統計データは高齢者のサンプル数が少ない上にデータの集計方法がはがきによるアンケートだったりでかなり怪しい(笑)。

 

 

 

Thinking Machines  機械学習とそのハードウェア実装

※現在は絶版。昔とりあえず買っといてよかった~。

機械学習用ハードウェアを対象として、特に回路周りの実装方法に踏み込んだ結構マニアックな一冊。自分は結構この分野に近い研究してた時期もあったので、まあ面白かった。

情報処理の形態に脳に近い演算方式のニューロモルフィックコンピューティングと積和演算で単純化したニューラルネットワーク、実装の回路方式にデジタル/アナログの2方式がありこの2x2のマトリックスで実装方法や動向がまとめられている。後半は機械学習ハードウェア論文紹介集みたいになっていて、レビュー論文とかの感じに近い。この本出てからもう5年以上くらいは経ってるので、2023年現在のこの分野の最新知見をまとめた書籍はそろそろ誰かから出されてもよいと思う(需要があるかは知らないけど……)。

 

nextpublishing.jp

 

REKIHAKU特集・人工知能の現代史

全体の半分くらいが人工知能関連の特集。9個のトピックに分かれていて半分くらいは1~2ページのコラムであり、読みやすい。

人工知能の現代史と言いながらも全般的には1990年代入る前の第二次AIブームくらいまでの内容が厚くて2010年代以降の内容は大したものがないと思っていい(まあ第三次AIブームの内容はそこらへんに転がってる人工知能関係の本にいくらでも書いてあるんやが)。日本で昔やってた第五世代コンピュータのトピックは特にプロジェクトにかかわった方が書かれており、特に面白かった。

後半の歴博の記事も面白いので買ったらきちんと全部読みましょう!

 

 

ロボット (岩波文庫)

『ロボット』という言葉の語源となったカレル・チャベックの戯曲。普通の小説ではなく演劇の台本なので、台詞メインでかなり読みやすい。

本書に出てくるロボットはバイオ技術を駆使して作り上げた人間そっくりの労働力であり、現実世界の機械によるオートメーションとは少し異なる。が、自動化の普及に伴う懸念や問題がストーリーに反映されていて、2010年代半ばに一時期流行ってたシンギュラリティだの人工知能は敵か味方か論争とかの先駆って感じがした。