ブックオフ珍書発掘隊!!
ビッグニュ―――――――ス!!
あの、ブックオフ珍書発掘隊が新しくなって帰ってきた!!(プライムショッピング)
というわけで、21冊目に発掘した珍書がこちら!
兵庫医科大学創設 森村茂樹―奉仕と、愛と、知と
著: 松本順司
神戸新聞総合出版センター
2014年4月1日発売
購入価格:220円(定価:2000円+税)
珍書度:★★★
内容のまとも度:★★★★★★★★★
森村茂樹の兵庫県の医療貢献度:★★★★★★★★★★★★
そのエピソードは墓まで持ってかなきゃダメだろ度:★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
本発掘録の目次:
1. なぜ本書を選んだか?
二年ほどブックオフ珍書発掘隊を休んでいて、新刊を書店で購入したり、ブックオフで古書を購入したり、図書館で借りたりして……とにかく『いい本』ばかり読んでいた。そして、いい本をたくさん読んでいる中で、ムズムズと自分の中に矛盾した感情が湧いてきているのを感じた。
珍書が読みたい……
ほとんどの人が読むことがないような妙な内容の本を発掘したい……
『後悔』したい……
そう思っていた私の視線がブックオフの片隅を捉えた。そこには優しく微笑む中年男性の顔と、『兵庫医科大学創設』というタイトルのオレンジ色の著書があった。
本を開くと、なにやらメモ書きのようなものが挟まっていた。
なんと本書は著者が誰かに寄贈した本が、ブックオフに売られたものだったのだ!なんという運命のめぐり合わせだろう!
ブックオフに流されたということは、恐らく手元に置いておくほどではなかったのだろう……新品同然の保管状態だったので、もしかしたらこの本を寄贈された人はろくに読んでいないかもしれない。
冷静に考えると、自分と全然縁もゆかりもない大学(しかも近畿圏以外だと私立医科大学)の分厚い創設者の伝記なんて関係者以外誰も読まないよな……?
じゃあ、俺がしっかり読まないと!
そう思った私は220円を払い、珍書発掘をもう一度始める決意を固めたのだった。
2. 書評
2.1 本書の概要
本書は兵庫医科大学の創設者、森村茂樹氏に関する自伝である。
森村氏の来歴はざっくりとwikipediaに掲載されている。
本書は関係者各位からのヒアリングをもとに彼の生涯の業績やエピソードについて詳細に記されており、兵庫医科大学に縁のある人物なら必読(?)の内容となっている。資料が残っておらず結局よくわからなかったという記述も多いのだが。
ざっくりとした森村氏の来歴は下記のようなものである。
森村茂樹は現在の尼崎市開明町生まれ。兵庫県立第一神戸中→第三高等学校→京都帝大哲学科→東京帝大医学部を出たのち、第二次世界大戦でインドネシアのジャワに医師として派遣され、戦後亡き父を継いで武庫川脳病院の二代目院長となった。
その後1972年4月に兵庫医科大学を開設した創設した。1979年、ドイツの大学と姉妹校締結を進めてる最中のプールで森本茂樹は心臓発作を起こし日本に移送され治療を受けたが、志半ばで逝去した。彼の功績が認められ、死後天皇から瑞宝章を授与された。
本書はそんな森村がどのような人物だったか、どんな少年時代を送ったか、どのような人物と交流があったか、どのように病院を拡大していったか、どのように大学を創設したのか、周囲の人物からどのようなエピソードがあるか……それらが網羅された内容となっている。
当時の大学関係者らの様子はもちろんのこと、近畿圏の医療業界や教育界・大学設立時の大変さがざっくりとわかる内容となっており、その点は面白い一冊である。
一方、本書の文章は少し読みづらい。たとえば章の途中に森村に縁のある人物の余談エピソードが挟まってそのまま数ページ続いたり、基本的には資料内容と関係者の証言をまとめ上げたノンフィクションなのになぜか最初の章だけ小説になっていたりといった点が挙げられる。……まあこれくらいならご愛敬だろう。
出だしはドイツで倒れた森村の心情描写から始まりまるで物語のようなドラマティックな展開だが、次の章からは何事もなかったかのように淡々と森村の来歴の話が始まる。
以下の節で本書で明らかになる森村氏の偉大な点や、「いやこのエピソード書かない方がいいだろ……」というような点について軽く解説する。
2.2 森村茂樹氏の正の側面
本書を読むと、森村氏は温和で社交的な人物であったことがわかる。また業績を見てもわかる通り、経営者としても教育者としても並々ならぬ辣腕を発揮した。
森村は大阪大学らと共同研究を積極的に行ったりインターンを受けいれたり、病院に外国で発表された新しい治療法や最新設備を取り入れ設備や人材を充実させた。さらには精神病院としては珍しく、運動会などのレクリエーションイベントを導入した。
当時としては(現在でも?)画期的な病院内運動会の様子が新聞に取り上げられたりもしていたらしい。
その後森村は病院の経営を拡大する一方で大学創設に向けての準備も推進した。大学創設関連のエピソードは特に読み応えがあり、本書のキモと言える。
兵庫医科大学創設にあたっては様々な困難に見舞われたようだ。例としては、
- 最初に認可申請を出した時の名称は武庫川医科大学だったが、武庫川女子大学から苦情が入った。(指摘を受けて兵庫医科大学に改名)
- 丁度大学の認可申請を出したタイミングで他大学の医学部で入試問題売買事件や収賄が相次いだ結果、大学設置審議会などからの申請書チェックが厳しくなり、不運にも最終答申を1年延期させられた。
- 大学敷地内に私的財産があってはいけないと指摘され、今まで運営してきた病院を1971年3月に取り壊すこととなった。(病院機能は他所に移行していたが)
- 設置認可が伸びた期間の招聘教授の生活保障のために出費がかさみ多額の借金に苦しめられた。
……と、なかなかの受難ぶりである。
繰り返すが、森村は病院業務も並行しながらこれだけの困難も対処していた。森村の心身の疲労は相当だっただろう。
これらの困難を乗り越え、兵庫医科大学は1971年に正式に設置認可され、翌年に開校した。病院経営時のノウハウも活用して研究体制や設備を急ピッチで整え、第1期生が卒業する1978年春に向けて大学院設置も進めて、大学の経営を拡大していった。
兵庫医科大学は県推薦制度などで受け入れ、兵庫県の僻地医療を担う医師養成に貢献した。学生を自宅に招いてイベントを行ったり、西医体の会長を務めたりと学生たちの部活動なども推進し大いに慕われていたようだ。
森村氏は教職員や患者などを自邸に招いて催しをよく開催していたようだ。アットホームな職場だなあ。
その他にも森本氏は一時京大哲学科に進んでいたことからも窺えるが昔作家を志したこともあり、志摩亘というペンネームで33歳の時VIKINGという神戸の同人雑誌に入会した。病院経営が忙しくなったため5年後の1955年に退会しているが、未発表のエッセイや小説なども残されている。
その他野球や水墨画などにも注力したエピソードが本書中に記載されており、仕事もプライベートも多方面で精力的に活動したことがよくわかる。
2.3 森村茂樹氏の負の側面
2.2で解説したように森村茂樹は優れた医者であるだけではなく、優れた教育者であり、また経営者であった。本書を読めばそれがよく理解できる。
一方で、それだけでは終わらない『余計な』エピソードが含まれている。本書の後半には彼のプライベートな人となりについての記述がある。この部分が読んでて「これ大学関係者とか本当にOK出したのか……?」と心配になったので、紹介していこう。
森村は外では社交的で柔和な人物という知人の証言が沢山あった一方で、どうやら家では亭主関白な昭和の親父的な人物だったことことが取り上げられている。特に長男に要求する水準は相当だったもので、第三者にも諫められるほどのスパルタ教育だったようだ。
その時の状況もあったとはいえ、精神科医が実の息子に「こいつは分裂症や!」はダメでしょ……。
森村は助平であり飲み屋での恥ずかしいエピソードや、娘と一緒にお風呂に入って胸を確かめたなどのエピソードも本書で記載されている。これは本当に載せてはいけない案件だろ……。
その他、妻美佐子とのデートの様子なども手帳に書かれた日記が残っているが記述にドイツ語を混ぜていてルー大柴みたいになっている。プライベート暴露はこれくらいのレベルだったら可愛かったのだが……。。
プライベートの恥ずかしいエピソードは歴史の偉人にはつきものだが、さすがに1979年没と比較的近年亡くなった人物の赤裸々なエピソードを大学名を冠した著書にここまで載せてしまって大丈夫なのか?と不安になってくる。
この部分がなければ兵庫医科大学のルーツを気持ちよく辿れる立派な一冊だったのだが……とはいえ、それが本書の魅力なのかもしれない(?)。
3. 総評
森村茂樹氏はいわゆる昭和の頼れる親父といった形の人望の厚い医師であり、父の後を継いで病院を経営し拡大していっただけでなく、念願だった大学運営にも携わって地域医療に貢献した。志半ばで逝去したが、その業績や人となりは様々な人の記憶に残り、その意思は病院や兵庫医科大学に今も根付いている。
本書の珍書としての魅力は、上記のような立派なエピソードにとどまらず、本人がご存命なら掲載NGが出たようなエピソードがしっかり掲載されて人間味が溢れ出してしまっているところである。
余談になるが、本書はどうやら2022年に改訂版が出ているらしい。2.3節で言及したあまりにも赤裸々すぎる森村氏のパーソナルなエピソードはご時世に合わせて削除、あるいは修正を行われたのだろうか?
私は改訂版の方を読むつもりはないので、有識者に是非確認をしていただきたい……。
次回の珍書についてはまだ何を発掘するかは未定だが2月末を予定している。
2023年度は月イチペースでブックオフ珍書発掘隊を進めて行ければと考えている。
また、皆さんにお逢い出来る日を楽しみにして今回は終えようと思う。
To Be Continued...