ブックオフ珍書発掘隊!!
ここ最近のブックオフ珍書発掘隊は有名なタレントなどが執筆した本が多かったので、ここでもう1度純粋な内容のみで珍書を選ぶことにする。
珍書というものは誰が書いたかももちろん大事だが、やはり1番大事なのは溢れ出る『怪しさ』だからだ。
今回紹介する珍書は労働に関する1冊である。
ブラック企業が何かと批判される現代の風潮の真逆を行く本書は、きっと読む人に働くことの意味を考えさせてくれるだろう……。
ちょっと待った!!社長!その残業代払う必要はありません!/和田栄 著
2011年2月17日発売
購入価格:210円(定価1,500円+税)
珍書度:★★★★
内容のまとも度:★★★
おすすめ度:★★★
炎上狙ってる度:★★★★★★
ブラック企業5秒前度:★★★★★★★★
本発掘録の目次:
1. なぜ本書を選んだか?
所謂タイトル買いである。
ブラック企業が槍玉に上げられ、酷い労働条件の会社の情報はどんどんネット上でシェアされて炎上する現代。ハラスメントや過労死、自殺はあっという間に広がり会社の評判に直結し、場合によっては株価が大きく下落することすらありうる。
そんな時代の中で、ここまで真っ向から批判を受けそうなタイトルの本を、現役の社会保険労務士が書いているらしい。
社会保険労務士、通称社労士は具体的にどんな仕事をしているのだろうか。
調べてみると、以下のような業務内容のようだ。
引用:
社会保険労務士オフィシャルHP(https://www.sharosi-siken.or.jp/exam/howto.html )
つまり労働や社会保険に関するエキスパートということらしい。
裏表紙に書かれている『社員の皆様はご遠慮ください』というメッセージから著者からの煽りが感じられる。明らかに炎上を狙った不敵な物言いだ。
こんな安い挑発に乗ってはダメだ、そう思いながら私は本書を手に取っていた。
私は、試されている。
労働に関する法律のエキスパートである社労士。その社労士という職業は我々労働者の敵なのか味方なのか、労働法は我々労働者の敵なのか味方なのか、きちんと見極める必要がある。
労働者の視点から、この本を発掘していきたいと思う。
2. 書評
2.1 本書の概要
本書は2011年に発売された一冊であり、現役の社労士が主に零細・中小企業の経営者に向けたうまい労働条件・就業規則の定め方を解説したという内容である。
つまり本書の要点はいかに人件費を安く抑えるかというところにある。
残業代、給与、有給、労働時間などなど様々な切り口からなるべく社員にお金を払わずに済むようなうまい方法を提案している。
労働者の視点から見たらそれらは気持ちいい内容ではないかもしれない。
しかし、一方で『経営者はこういう風にしてうまいこと労働条件をちょろまかす』といったアイディアが本書から感じ取れることは事実である。
労働者として、目ざとく労働条件の良い会社を探す時に、この本で触れられている視点は役に立つのではなかろうか。
具体的な内容は次節で触れるが、この本で取り上げられているような内容は、『めちゃくちゃヤバい労働条件』ではない。明らかなブラック労働条件は問答無用で法律に違反するからだ。
だが、この本で取り上げられている人件費削減テクニックが積み重なると我々が思い浮かべるような真っ白な労働条件がどんどん黒くなっていき、グレーに染まってゆく。
ブラック企業には明確な基準があるわけでなく、人によって認識する境界が違うのだということを本書は気づかせてくれる。
それでは本書の詳しい内容に移ろう。
2.2 限りなく黒に近いグレー
さて、本書の内容だが法律に触れないように人件費を削るための就業規則・労働条件の定め方が書かれている。
↑これもうほとんど悪魔の囁きだろ。
↑『違法』ではない。これは本書の重要なポイント。
まえがきにもある通り、法律に触れない絶妙なラインの労働条件の決め方が書かれているが、その内容は全て合法である(少なくとも刊行当時は)。
本書の内容は大きく5章に分けられており、残業と休日労働、有給休暇の処理、給料・退職金、休憩時間・休職期間、就業規則の作り方についてそれぞれ解説がされている。
労働基準法というものはよく聞くものの、法定労働時間などの有名どころ以外は意外とよく分かっていないという人が多いのではなかろうか(というか私がそう)。
本書は労働基準法をうまく解釈して、ちょっとでも人件費を削る節約主婦のようなテクニックが沢山(合計44トピック)紹介されている。
紹介されている内容としてはたとえば、
- 土曜日は必ずしも『休日労働』扱いしなくても良い。
→週休一日制にして土曜出勤させると、厳密に言えば法定休日ではないので給料計算は35%増しでなく25%増しで計算でき10%の人件費削減になる。
- 会社には「通勤手当」を支給する義務はない。
→交通費を別途で支給すると引っ越しなどで支払額が一気に増える可能性があるので、基本給に交通費を固定で含めておいた方が良い。
- 入社6ヶ月で出勤率8割以下の社員には有給休暇の付与を1年間見送っても良い。
→法律上『雇入れ日から6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に有給を与える』と書かれているため。
などなど、様々な観点から人件費を抑えるテクニックを紹介している。
紹介されているテクニックの大半は「まあこれくらいならありうるかな」という人件費削減テクニックであるが、ヤバいヤツだと勤務時間中の健康診断は業務時間外に相当するのでその時間分の給料は支払わなくてもよいというものがある。 さすがに本書の中でもこのテクニックは「オススメしない」と書かれてはいるが……。
私は経営者の視点は持っていないため本書の有効性を実感できていないが、これらの人件費削減テクニックは企業を立ち上げる時に知っていると役に立つのではないだろうか。
一方で、ある程度福利厚生のしっかりした企業に勤めていると正直書いている内容はありえないなと感じてしまうし、こういう企業では働きたくないと思う。
労働契約というものは経営者と労働者の間の平衡点で交わされるべきなのだと感じた。そして、納得できない労働条件を提示する企業は避けるべきだ。
本書で紹介されている人件費削減テクニックには、極論に近く受け入れがたいものもあれば、割といろんな企業で導入されてそうだし許容できるものも混在しているように感じた。企業で働く中で妥協できる条件はどれで譲れない条件はどれなのか、不安定なこの時代でしっかり考えることはきっと大事だろう。
本書はその一助とまではいかなくても、きっかけの一つにはなるのかもしれない。
3. 総評
本書で書かれているのはあくまで2011年当時の労働基準法に基づいた記述であり、当たり前だがこの後に労働基準法は改訂されている。
同一労働同一賃金や36協定による残業時間規制の厳格化など、様々なところで当時と今では環境は全然違っているわけではない。アルバイトの最低賃金だって、私が大学一年生の頃から比べると150円程上がっている。コロナ禍の中、中小企業は厳しい闘いを強いられていると言える。
本書に書かれているようなテクニックが、全て今でも使えるわけではないだろう。
とはいえ、時代に合わせてこのような所謂『法の抜け道』を目ざとく見つけて社員が離れない程度に労働条件を上手く拵える企業はなくなることはない。
何故なら人件費は企業にとってやはり莫大なものであり、ここでのロスは特に零細・中小企業にとっては命取りになるからである。
我々労働者は、労働条件をきちんと見つめて得られるはずのお金や休みをしっかりと掴む必要があるしそのための権利主張をする必要がある。本書を通じてそう感じた。
新米の経営者がこの本で書いてあることを真に受けて沢山取り入れた労働条件を提示したら、法律には触れていなくても、労働者から間違いなくブラック企業の烙印を押されるだろう。
一方我々労働者側としては、労働条件や就業規則をよく見てからくりを見破る能力が大事になる。
本書はその意識が芽生えるきっかけとなる、良い反面教師ではなかろうか。
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次回は今週の内容と関連して、ブラック企業の代名詞ともいえる某企業にまつわる一冊を発掘したいと思う。
そして連休の関係で、次回のブックオフ珍書発掘隊は来来週に更新する。その代わり、連休中には別のブログを更新する予定だ。
四連休に特に予定のないあなたよ、ブックオフで珍書を発掘しないか?
To Be Continued...