ブックオフ珍書発掘隊!!
5月から始まったブックオフ珍書発掘隊も半年を迎えようとしている。
途中休みを挟みつつも、発掘した珍書の数は今回で20冊になる。感慨深いことである……。
さて、第20回目となる今回はド直球タイトルながら奥が深い珍書を発掘したいと思う。
葉っぱ1枚あればいい、生きているからLUCKYだ!
そんな気持ちで発掘作業を進めたいと思う。
マリファナ・ブック/著:ローワン・ロビンソン 訳:麦谷尊雄、望月永留
1998年6月1日発売
購入価格:210円(定価:2,200円+税)
珍書度:★★★
内容のまとも度:★★★★★★★★★★
おすすめ度:★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
内容むちゃくちゃ真面目度:★★★★★★★★★★★
ガンギマリ度:★
本発掘録の目次:
1. なぜ本書を選んだか?
ずばり、タイトル買いである。
マリファナに関するトピックで分厚くぎっしり詰まっている本書を見てこれは発掘すべき本だと確信した。
2. 書評
2.1 本書の概要
本書はマリファナ(大麻)に関するあらゆるトピックを網羅したというべき一冊である。
300ページ超えのボリュームにぎっしりと大麻に関する話題のみが詰まっていて、1999年時点での世界中での大麻事情がこの一冊で丸わかりと断言しても良いくらい充実した内容と言える。本書のトピックは帯にも表れているように非常に多岐にわたっている。
↑ホンマでっか!と言いたくなるような内容だ。
本書の特徴として、コラムが非常に多いことが挙げられる。
本文とは別にページの下半分にコラムが書かれており、補足の情報や引用文などを読むことができるのだが、一つあたりの量が多く結構な頻度で出てくるので本文との兼ね合いで読みにくいところがある。また、長いコラムだと4ページにわたって続くことがある。まあ脚注で巻末にまとめたら本文とのつながりが分かりにくいんだろうけども……。
↑クソ長コラムの読みごたえは十分だ!
本書は全7章+おまけの1章の8章構成されている。
まずイントロダクションで大麻が産業用、医療用などといった様々な用途に使用されているという例が示される。
その後、1~3章で環境へのやさしさ・医療用・宗教などのスピリチュアルへの視点からの大麻の有用性が語られ、
4章では大麻に関する世界史が書かれている。そして5章ではアメリカにおける黎明期での大麻の活躍が書かれており、6章では大麻が規制されるようになった経緯、そして7章では規制の見直しに関する動向が語られて本書は締めくくられている。
そしておまけとして、日本における大麻のつながりについて麻生結氏という、著者と別の人が書いた文が30ページほど追加されている。
現代における大麻の用途は主に産業用、医療用、そして我々が一般的にイメージする嗜好用である。大麻のアプリケーションについて、我々は普段そこまでイメージしていないかもしれない。そういった人でも本書を読み終わる頃には大麻がいかに様々な用途で使える万能な植物であるかを知ることができるだろう。
本書の著者のローワン・ロビンソンという名前はペンネームであり、正式には誰が執筆したかは明かされていないそうだ。大麻関係の膨大な情報をまとめ上げてこれほどの完成度の一冊を仕上げるということは、大麻関係の研究者だとか歴史学者だとかそういった人物なのであろうか?あるいは複数人で分担して執筆した可能性も考えられる。なんにせよ、気になるところである。
本書のトピックは多岐にわたり、非常に豊富である。そのすべてを紹介することはかなり難しい。
そこで2.2節では大麻の応用先について、2.3節では大麻が規制されるまでの経緯に触れていきたいと思う。
2.2 とにかく役に立つ大麻
本書の前半部分は大麻の有用性と歴史に関する記述が中心となっている。
大麻の発祥は中央アジアだと考えられており、最初は繊維植物として栽培されていたようだ。古代中国では大麻が編まれた靴や大麻の縄による模様のついた土器などが発掘されている。一方、嗜好品としての大麻はインドを発祥としているようだ。後述するが、ヒンドゥー教と大麻は深く結びついている。
作物としての大麻の大きな特徴として、単位面積の収穫量が多い、土壌にほとんど負担をかけず輪作に適している、広い気候で問題なく育つ、ほとんどのすべての部分を利用することができるなどが挙げられている。欠点としては繊維が固く、綿などと比較した際に加工に手間がかかるといったところが挙げられる。
大麻の応用先としては、たとえば強靭な繊維を持つ茎は木材の代替材料として用いることができるし、種子の油をバイオマスエネルギーとして使うことができたりと環境には非常に優しい作物となっている。
さらには大麻の種子や樹脂などは古代の中国やインドなどで薬品として扱われてきた。大麻の優れている点として、気分を良くする酩酊作用がある一方でほとんど副作用がないということが挙げられる。このような効果はテトラヒドロカンビノール(THC)、カンナビノール(CBN)などといった成分によるもののようだ。ちなみにTHCは違法成分で日本では現在規制対象となっている。この幸福感を与える作用は、様々な病気で苦しむ人々の苦痛を和らげるという点で非常に有用となっている。
↑大麻のクッキー、一度食べてみた過ぎる。
このような大麻の作用は医療のみならず、スピリチュアルにまつわる分野でも昔から広く使用されてきたようだ。
↑なんというか、テンプレな説話で笑ってしまう。
特にインドではヒンドゥー教の悟りの神シバとの交わりを示す神聖な草として大麻が嗜まれてきた。イスラム教では酒は禁止されているが、大麻類については特に規制はされていない。その他様々な民族が儀式や修行などで神と交流するために大麻を用いていたという記録が本書内で提示されている。
大麻が様々な土地で良く育つ作物であること、そして人々の暮らしに根付いていた証拠と言えるだろう。
2.3 なぜ大麻は悪者になったのか?
本書を読み進めていくと、大麻は加工技術の難しさはあるとはいえ、小面積で大量に収穫でき、繊維や紙、医療用としての用途に適しており、さらに嗜好用として用いた際にも副作用が極めて少ないなど、あらゆる面で優れた作物に思える。
歴史的にも遥か昔から様々な地域で人々が使用しており、信頼性のある作物のように思われる。
それなのに、何故大麻は禁止されたのか?
その点については、本書の6章以降に経緯が書かれている。
19世紀のアメリカでは、インドやエジプトから大麻をベースとしたハシーシュ(大麻樹脂を乾燥させたもの)やガンジャなどが輸入され娯楽品として親しまれていたようだ。昔のセブンアップにはクエン酸リチウムが入っていたり、コカ・コーラにはコカインが入っていたりと薬物禁止法が整う前はかなりおおらかな時代だったと言える。
大麻の取り締まりの始まりは20世紀に入ってから、アヘンやコカインなどと同様に大麻を禁止薬物として取り締まるように働きかける風潮が生まれたことが発端のようだ。
アルコールが規制されていた当時、まだ規制がされていなかった大麻の市場が拡大し、犯罪者が急増する中でその原因が大麻にあるとの非難が上がったためである。
薬物による犯罪の増加により、まずコカインなどが槍玉に上がり、それらが規制されるとその次の対象として大麻が上がったわけである。犯罪の増加と大麻の因果関係がどれほどのものなのか不明であるが、実際の時代背景としてはメキシコからの移民や黒人などの移民が増加しており、それらの人々が大麻をよく服用していたことなどが大麻禁止の風潮に拍車をかけたものだろうと本書では推察している。大麻禁止は、人種差別等も複雑に絡み合って生まれたものだと言える。
医療関係などの専門家の中には、大麻には世間で言われているような有害性はないといった主張もあり、さらに産業においても繊維や紙資源として大麻は重要な作物となりうる存在であったため大麻規制に反対する人々もいた。
しかしながら1937年に反対意見が聞き入れられることなくマリファナ課税法が通り、大麻を栽培していた農家は大打撃を受けほとんど壊滅状態に陥った。
その後の展開としては、大麻所持の過剰な取締による警察官の不正や囚人人数の倍増による財政の逼迫、そしてその割には犯罪者数は一向に減らないと踏んだり蹴ったりだったようだ。
そして医療用としての需要や作物としての有用性を顧みて、現在ではアメリカでは一部の州で医療用、さらに一部の州では嗜好用として大麻が解禁されている。
本書の刊行時点では大麻の有用性はまだ見直され始めた段階であり、嗜好用の大麻解禁までは至っていない。
その中で再び身近に大麻のある暮らしを物語風に書いて、大麻が解禁される未来を仄めかすような形で本書の本編は終了となっている。
↑大麻は着実に米国で合法化されつつあるので、その意味ではこのような物語が現実に来る日も近いのかもしれない。
さらにおまけの章で語られているが、日本においては、敗戦後にGHQがアメリカの兵隊が日本で大麻を服用しないようにと作られた大麻取締法がベースとなって現在に至っている。 タイミング的にもアメリカの大麻禁止の風潮を色濃く受けた形になっているわけだ。
調べてみると現在の日本の法律では大麻の葉、根、蕾の部分は禁止されているが茎と種(加熱加工したもの)は許可されている。そして大麻の単純所持は違法となるが、服用は厳密には違法とならない。禁止されていない茎と種にもごく微量の禁止成分は含まれており尿検査などで引っかかったからといって禁止されている大麻を服用したかどうかは断定できないからのようだ。
……何というか、非常に込み入っててややこしいことになっているなという印象だ。
3. 総評
20冊珍書を発掘して、初めて本当にめちゃくちゃ面白い1冊を引き当てたという印象である。めちゃくちゃヤバい本かめちゃくちゃいい本かどちらかだと思っていたが、後者で本当に良かったと思う次第である。
ドラッグとしてのイメージが強いながらも、実際には非常に応用範囲が広く古くから親しまれた植物であり、禁止薬物として悪名が広がったのがむしろ最近であったことを本書を通じて初めて知った。
大麻の歴史を学ぶ上でも役に立つし、本書を見た後には大麻所持で逮捕されている人が少し違った目線で見えることだろう。
トピックの豊富さと面白さ、内容のまとまりも含めて万人にオススメできる一冊なのだが残念ながら現在は中古でしか取り扱いがないようだ……。
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さて、20回続けてきたブックオフ珍書発掘隊であるが今後は更新頻度を落としていこうと思う。
理由はシンプルに週一で書くのがかなりしんどいというところであり、なおかつ週一のペースに合わせるために十分な発掘が行えていないままブログを出してしまっている現状があるからである。
どれくらいの頻度で行っているかはこれから考えようと思うが、とりあえずは隔週を目途に考えている(それでも無理そうなら月一で)。
ともあれ、また次回!
To Be Continued...