孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

いきなり!ステーキ 【ブックオフ珍書発掘隊 その18】

ブックオフ珍書発掘隊!!

 

 

今回取り上げるのは彗星の如く現れ、彗星の如く撤退しつつある飲食店のオーナーが執筆した1冊である。

安く、早く、美味しいステーキを食べられる完璧なお店。原価率が高くても回転を早くして儲けるビジネス。我々お客にとってこれほど素晴らしい店を生み出したそのオーナーのバックグラウンドとその歴史に迫りたい。

 

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いきなり!ステーキ/著:一瀬邦夫

 商業界

2015年3月10日発売

購入価格:210円(定価:1,500円+税)

 

 

珍書度:★★

内容のまとも度:★★★★

おすすめ度:★★★

社長の自信度:★★★★★★★★

店舗出し過ぎて歴史繰り返す度:★★★★★★★★★★

 

 

本発掘録の目次:

 

 

 

1. なぜ本書を選んだか?

私はいきなり!ステーキに実は一度も行ったことない。

別に理由はないけど、なんとなく入るきっかけがなかったのだ。

ステーキって高いものだし、複数人だと別のステーキ屋に行くし一人だとなんやかんや別のものを食べてしまうからである。いきなり!ステーキは実家の近所にできて帰省した時に食べようと思ったら二年も経たずに潰れてしまって結局食いそびれた思い出がある。

 

このいきなり!ステーキといえば、いきなり!フケーキと揶揄されるほどに、店舗拡大を急いで閉店が相次いで大変なことになっている。

グラム単位での切り売り、でかいステーキが手ごろな価格で気軽に食べられる、肉マイレージカードなどのユニークなサービスもある、実際に客からのウケも良かった……なのになぜ、ここまで急遽店舗を拡大をする必要があったのか。なぜそこまで生き急ぐのか。 

本書はペッパーフードサービス代表取締役社長である一瀬邦夫氏自身が書いたいきなり!ステーキ誕生までの秘話を描いた一冊ということで、その経緯や発想の源泉がしれるのではないかと思い発掘を敢行することにした。

そしてもし本書を面白いなと思ったら、いきなり!ステーキに1度足を運んでみたい。まあ田舎勤務なので現在の家の近くにいきなり!ステーキはないのだが……。

 

 

2. 書評

2.1 本書の概要

本書はいきなり!ステーキらを経営するペッパーフードサービス取締役の一瀬邦夫氏が直接書いた著書であり、いきなり!ステーキが成功するまでの紆余曲折あった物語を書いたいわば自伝でもある。

本書で強調して語られているのは、『いきなり!ステーキ』というのはぽっと出で生まれた形態の店ではないということだ。

一瀬氏はコックとしてキャリアを始めると27歳の時には独立し自分の店を持ち、その後ステーキ肉とご飯をステーキソースとバターで炒めたペッパーランチを展開し以降70歳を悠に超えた現在に至るまで現役で社長を続けている。ステーキにフォーカスした長い飲食店経営の歴史の中で、いきなり!ステーキが生まれたのは2013年と非常に最近のことである。脈々とした歴史の中で、熟成されたアイディアがいきなり!ステーキという形で花開いたのだ。

そのためか、本書で留意すべき点としては、いきなり!ステーキそのもののエピソードはそこまで書かれていないということだ。

いきなり!ステーキができてまだ2年という段階で出版された一冊なので、話の内容としてはどうしても一瀬氏の生い立ちや今までの経営履歴といったところの話が多くなっている。

 

いきなり!ステーキそのものの情報はそこまで多いわけではないので、その点は留意すべきであろう。

 

 

2.2 おじいちゃんの迸るパワフルさと生命力

本書を読んでいると、一瀬氏の持つ溢れんばかりの自信と生命力をひしひしと感じる。そして、一瀬氏が昔気質なガッツのある経営者だということも感じられる。

経歴の一つ一つ、ビジネスモデルの話し振り一つ一つとっても凄く自信満々にやってきたことが文章から伝わってくるのだ。 

コックとしてデビューした時から「半年でストーブ前で調理を行っていた」ところや、ペッパーランチについて「革新的なアイディア、絶対にヒットすると確信していた」と自分で自分を繰り返し褒め称えていたり、自身の判断や行動について自信のほどが窺える。そして、実際にすごい業績を建ててきたことも事実である。

そして、コックからオーナーになった経験からか現場での観察に基づいて非常に先見性のあるアイディアを次々生み出すところもやはりすごいと思う。

一瀬氏が経営しているペッパーランチでは鉄皿を電磁式調理器具で暖めているが、このタイプの器具を飲食店で導入したのは日本でペッパーランチが初めてだという。さらにフードコート等でも導入するために考えた軽量化のアイディアを特許化したりと非常にアイディアマンで行動が素早い印象を受ける。

 

一瀬氏のノウハウやアイディアを結集して生み出されたいきなり!ステーキは、まさに彼の経営者人生の集大成とも言えるビジネススタイルではないかと感じた。

良質な肉を安く仕入れるコネやノウハウ、過去に値下げ競争に走った時に学んだ「安いものを安く売ることに意味はなく、高いものを安いもので売ることに意味がある」という教訓、そこから導き出される材料の原価率を上げる代わりに立ち食いして回転を早くして儲けるビジネスシステムのバックグラウンドを思うと、「いきなり!ステーキってスゲー!」という気持ちが湧いてきた。

一瀬氏が経営者の才能、特にアイディアと行動力に溢れていることは間違いない。

 

だが一方で、一瀬氏は非常に気が早くてとにかく成功を確信したらヒトモノカネ全てをつぎ込んで店舗を拡大してスケールをでかくしようとする生まれながらの性質があるようだ。

後述するが、いきなり!ステーキを立ち上げる前にも本書で書かれている中で2回急いだ店舗拡大で会社を危機に晒した過去がある。

その際に海外や高級ショッピングモール、フードコート等に乗り込んで得たノウハウが活きている面もあるので一概に悪いこととは言えないが、今のいきなり!ステーキの状態を見ていると、『人とはなかなか変わらないんだ』ということを実感させられる。

 

さらに言えば、思いついたことや思ったことは十分に吟味せずとにかく言ってしまう、伝えてしまうといったところもある。

例えばラジオの生放送で「牛肉しか扱いません」とつい宣言しちゃったり、最近だと「お願いだから店に来てください」という直筆メッセージをいきなり!ステーキに貼り出したり……。

世間からの反応の大きさを考えれば悪い面ばかりではないだろうが、迂闊な発言で自分の首を絞めがちな一面も本書から感じられた。

 

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↑生放送中につい牛肉しか扱いませんと言っちゃって豚肉鶏肉メニューをおしゃかにするおちゃめな一面もある。

 

 

2.3 そして歴史はまた繰り返す

さて、いきなり!ステーキはなぜあんなに無理やり大量出店を行ったのか?

その論理的な答えについては本書からは得ることができなかったが、ひとつ明確な事実がある。

 

過去にも何回か一瀬氏は調子に乗って店舗を出しまくって失敗したことがあるということである。

最初に店を持ったステーキくにでも、店舗数を勢いづいて4店舗まで拡大して失敗した経験がある。その際には社員全員を説得し、一度給与やボーナスなどの人件費を抑えて何とか経営を建て直したとのことである。

 

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↑スタートが上手くいって勝利を確信した瞬間店舗拡大に向けてまっしぐらに突き進む。これはもう一瀬氏の性質ではなかろうか。

 

店舗拡大によって痛い目を見たのはその一回だけでなく、さらにいきなり!ステーキ以前のペッパーフードサービスの主力であったペッパーランチでも業務形態の革新性で勝てると踏んで店舗を大量に新設した前科過去がある。

ペッパーランチの運営の際には他にもBSEが流行して大打撃を受けたり、フランチャイズ店の店長らが悲惨な事件を起こしたりと度重なるピンチを掻い潜ってきた過去があることが分かる。そのピンチをくぐりぬけ、ペッパーランチは何とか存続し続けてきた。

 

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↑大変な不祥事、あっ(察し)

 

 

数多くのピンチを経験しつつも、その都度それを乗り越えてペッパーフードサービスは上場を果たした。

その後に新たなアイディアと検証を経ていきなり!ステーキをオープンさせて本書で謳われている『ブレークスルー』を起こした。

 

そして本書の最後では、いきなり!ステーキは高い原価率と回転の高さを武器にこれからどんどん店舗を拡大していくという野望について書かれている。

それに伴ってシニア層など様々なスタッフを雇用し、人も確保していく。従業員にとっても最も幸せに働くことのできる企業を目指していくという。

 

……それから五年後、店舗拡大の行く末がどうなったか我々は知っている。

それを踏まえると、本書の締めくくりはいきなり!ステーキ大量出店からの大量閉店への盛大な前振りにしかみえなくなってきて、何とも言えない気持ちになるわけである。

 

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↑こんなに綺麗な死亡フラグは現実ではなかなかお目にかかれない……。

 

 

 

3. 総評

2019年には店舗数を500店舗近くをオープンさせたいきなり!ステーキだったが、現在は100店舗ほどが閉店して店舗数は減少している。

過去の経験の中で得たノウハウやアイディアを元に大成功を収めたいきなり!ステーキだったが、過去の失敗とだいたい同じ理由で危機を迎えているのが興味深いところである。

 

本書はペッパーランチやいきなり!ステーキなど様々なヒットチェーンを生み出した一瀬氏のパワフルさと自信が伝わってくる一冊だった。

そして、いきなり!ステーキの件の大量閉店などの一連のニュースについても何となく合点がいった。

「この社長ならやりかねんだろうな〜」と。

 

いきなり!ステーキもいきなり思いついた突拍子のないアイディアではなく、日々の観察と思考の中で生まれたアイディアを実際に実行する段階になってようやく形になって生まれたブレークスルーだった。

このようなヒットを1度のみならず何度も出すことができる一瀬氏はやはり常人とは違う凄まじい能力を持った経営者と言えるだろう。

だが同時に、彼は調子に乗りすぎて店舗をどんどん拡大してしまうところがある。そういうところがよく言えば非常に人間らしいと言える。

一ノ瀬邦夫氏の元で働くのは御免こうむるが、面白くて魅力のある人だなということが知れてよかった。

 

 

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……いきなり!ステーキはまあ、時間と余裕がある時に一度行ってみようと思う。

 

 

To Be Continued...