孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

2023年7月に読み終わった本リスト

暑すぎて外に出るのが億劫なので冷房の効いた自室でそこそこ本を読んでた。

お盆休み入ったのでサッと更新。

 

基準:

  • 当該月に読み終わった本が対象(※読み始めたのがその月とは限らない)
  • 最初から最後まで目を通した本を『読み終わった』と定義

 

昨月の記事:

2arctan-1.hatenablog.com

 

目次:

 

 

光できらめく理系女性たち―理想のワークライフバランスを目指して

私立女子大学で唯一理学部を持つ日本女子大学の小舘香椎子研究室(光学系の研究を行っていて望遠鏡すばるの光学部品を納入した実績あり)を中心に、日本女子大学のOGや政府・企業関係者による理系女性のキャリアについて色々書かれた本。光学×理系女性というかなり狭いスコープが気になって読んだ。こういう自分と全く重なっていない対象に向けて一生懸命まとめられた本は個人的に好みである。

1章は理系への産官学の女性支援体制、3章は産学有識者から女性技術者へのメッセージでお偉いさんの話って感じであんまり面白くない。4章は2007年当時の日本女子大学在籍の学生へのアンケート結果や小舘研究室の紹介でデータとして、理系のキャリアに進みたい中高生は特に参考になるだろうと思った。

本書の目玉は2章の日本女子大学小舘研究室OGたちのトピック。大学教員や研究所職員、民間企業のエンジニア、その他結婚を機に退職し再就職した人など様々な女性のキャリアと後輩へのメッセージが書かれている。日本女子大学は昔は家政学部内に現理学部に相当する研究室があり、大学院を持っていなかった。その中で光学を追求し東大助手になり、二児を育てながら独自の光学研究を続けてきた小舘教授の背中を見るようにOGたちも日本女子大学や他大学院へ進学し研究者・技術者として築いている。子育て・家庭との両立を行いながらキャリアを築くOGのロールモデルが身近に多数存在するところが女子大の強みと感じた。日本女子大学のちょっと詳しいパンフレットに載ってそうな内容だが面白かった。

ちな小舘研究室の当時の紹介PDFはググったら出てきたので、興味ある方はぜひ(俺以外興味あるやつはおらんか……)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej/63/3/63_3_312/_pdf/-char/ja

 

参考:

www.adcom-media.co.jp

 

 

 

制御システム技術の理論と応用

東芝の技監がメインで執筆された本で、重電バリバリ時代の東芝の制御技術に関する取り組みや色々な手法がまとめられている。もちろん制御工学をかじっていないと数式の詳細な議論はわからないので、ファジィ制御エキスパートシステム/ニューラルネットワーク制御に関する章を厚めに後は流し読み程度で読んだ。いわゆるPID制御などの古典制御、現代制御の理論や動向・導入事例を皮切りに、線形計画法などの数理最適化、エキスパートシステム/ニューラルネットワーク人工知能系と取り扱う範囲は広くその他シミュレータの発展やヒューマンインタフェース・制御システム関連のハード/ソフト関連の技術などまで書かれている。「制御」にまつわるものなら何でもござれって感じの本。

この本が刊行された92年時点だと所謂ルールベースのAIであるエキスパートシステム/ファジィシステムは発電所の運転制御、電力復旧、道路トンネル換気制御など様々な導入例が話されているが、ニューラルネットワークは3層のしょぼいネットワークで制御のシミュレーションやってみましたという話くらいしか実例がない。この差は第二次AIブーム前後のAI概況を端的に表していて面白い。

 

 

 

野田の日記 -2006-2011(はじめのほう)それでも僕が書き続ける理由 (ヨシモトブックス)

マヂカルラブリー結成時から野田が魔法のiらんどで執筆していたブログのうち2006〜2011年までを収録したもの。
郵便局員のバイトの話、楽屋での会話、家族との会話、M-1グランプリや単独などの裏での会話や告知、村上との会話、その他日常エピソードなどを端的に。
見ていると昔はマヂカルラブリーは結構吉本とかの舞台で芝居やってたんだな〜となる。他にも桜前線、モダンタイムス、井下好井などの名前が出てきたりパンサーや田畑藤本、インポッシブルあたりとのエピソードで「そこら辺の芸人より野田の方が先輩なのか……」となる。一つ一つのブログは短いけど普通に6年分あるのでトータルだと結構文量ある。

 

 

 

大規模言語モデルは新たな知能か ChatGPTが変えた世界 (岩波科学ライブラリー)

今年の6月に出たばかりの本。ChatGPTに興味ないわけではないのでもちろん読了。様々な人が書評書いているので今更やが。

ChatGPTのアプリケーション、リスク、各国の投資状況などが簡単にまとめられていて助かる。5,6章でLLM(大規模言語モデル)がなぜすごいか、どのようにすごいか理論的なポイントがまとめられている。Transformer(モデル構造の名前です)に基づいた大規模言語モデルのすごさは主に以下の二点だと読み終えて自分なりに理解した。

  • モデルサイズ、訓練データ数、投入計算量を上げることで予測誤差がべき乗則的に低下し性能向上すること。
  • モデルサイズが一定以上大きくなると今まで解けなかったタスクが急に解けるようになる(創発)

前者は古典的な機械学習の常識からすると考えられない(モデルをやたら複雑にすると過学習が起き性能が下がるはず)し、このべき乗則が成り立つということは例えばモデルサイズを大きくすることでどれくらい精度が上がるか予測できるということで「そんな夢のような話が……!?」となった。

後者に関しては、原論文を当たってみないとわからんところもあるが仮想的にパラメータを変更してタスクにその場で適応しているようなことが起きているという。ChatGPTが色々な質問にいい感じに答えてくれるのも創発様のおかげというわけか。

ともあれ、機械学習界隈が改めて異常なものが次々出てくる魔境であることを周回遅れで実感した感じがした。面白いし数式も出てこなくて読みやすいので、みんな読みましょう。

 

 

 

京都三大学 京大・同志社立命館――東大・早慶への対抗

京都を代表する3つの大学の歴史、特色、輩出した有名人物などがまとめられている。割り振りは京大4章、同志社立命館は2章でボリュームはかなりある。
本書内の内容を例に出すと京大の前身となる第三高等中学校は短い間に数回改名していた、元々大阪にあった、東大法学部が官僚養成機関であるのに対抗しゼミナール中心の方針を京大法学部は打ち出したが司法試験などの合格者が東大と比べて低く批判され方針を転換した……など面白い話が沢山ある。

万人には勧められないが俺みたいな学校の歴史が大好きな物好きが読むととても楽しめる本だと思った。

 

 

 

無名時代 (集英社文庫)

出先で涼みに入った喫茶店に置いてあったのをサッと読んだ。

阿久悠が明大を卒業して広告会社(宣弘)に入社し、放送作家として活動し出すまでを描いた自伝小説。実際に作詞家として活動しだすところ(≒ほとんどの読者が一番気になるところ)は全然書かれていないが、上川(上村一夫)に歌詞を描いてギターを弾いて歌ってもらっていたという話は載っている。
振られたり同棲したりを繰り返すメンヘラ女や会社の3歳上の総務→バーのママになった女との関係の話や、ダメな先輩や営業から取引先の大手メーカーに転職した同期などとの会話などが詳細に描写されており、広告関係の仕事部分の描写はもちろんあるにはあるがそちらは薄めである。ナルシズムかかった文章でタバコ吸いながら女とのただれた関係書きまくりで鼻についた。というかほとんどそれ。

肝心かなめの会社を辞めるところとか、広告会社しながら放送作家として台本送りまくって2足のわらじやってた話(めちゃくちゃ凄いことやっている!)がむっちゃサラッと流されている。努力部分や苦労した部分は見せず、女や同僚らとのオサレな会話に終始するのが白鳥のごときエレガントな阿久悠スタイルか。
最後のいきものがかりの後ろの男(水野良樹)の解説は薄っぺらすぎて全然頭に入ってこなかった。

 

 

 

近畿大学プロジェクト クロマグロ完全養殖

グローバルCOEなどに採択されていた近大のクロマグロ養殖プロジェクトの成果をもとにまとめられた一冊。半分専門書みたいな感じだけど、養殖に関する実験データは割と明快なものが多く読みやすい。

序章でマグロの歴史とかが書かれているが、まずここで「へ~」となることが沢山ある。縄文時代からマグロの骨の跡が見つかっていていた、万葉集に『鮪釣る』という表現の和歌が載っている、江戸時代初期は『勝つ男』というゲン担ぎでかつおの方が人気でマグロは格下だった……など。

マグロの養殖に関しては稚魚時代に初期の減耗、共食い、柵への衝突死などとにかく何かあるとすぐ死ぬし、輸送後もせっかく移したマグロが死にまくるなど、あまりにも課題が多くて面白い。マグロが食べれる生きた稚魚を給餌する、柵にぶつからないようにわかりやすい色・模様にする、照明をつけるなど一つ一つの検証と対策を重ねてようやくクロマグロの完全養殖を達成したようだ。近大を始めとする水産関係者の努力には頭が上がらない……。

 

 

人工知能ー実用化の時代へ(新潮文庫)

6章構成。長尾真氏は基本編集で、パート6の人工知能の展望や限界に関する話のみ執筆。パート1〜5は石山昭男氏(ググってもこの人の来歴は出てこない……)が担当。エキスパートシステム最盛期かつ昭和末期の本であり、この時代は人工知能=ルールベースでありそもそも人工知能の歴史の話にマカロック&ピッツの人工ニューロンパーセプトロンなどの話は出てこないという今だとまああり得ない内容の本。コンピュータも一般にあまり普及していない時代なので、内容は半分が電子計算機の発展(ENIACとかね)の話で半分がエキスパートシステム
特筆すべきはパート4の日本DECが国鉄に導入した列車運行管理システムの話である。ルールベースの人工知能(今みるとこれは人工知能と呼ばれるものではない気もするが)で新幹線の最適化を導入する様子が書かれている。国鉄職員からルールや知識を仕入れて必死にIF~THENルールを試行錯誤する様子が書かれていて、ルールベースのシステム開発って相当大変なんだなぁと思った。

 

 

JAXAの研究開発と評価

JAXAの研究開発と評価に対するJAXAの張替氏と同志社大学の山谷氏の対談。

JAXAは2003年に文部科学省の管轄で、それまで異なる目的、管轄で運営されていた宇宙開発事業団』『航空宇宙技術研究所』『宇宙科学研究所の3つの宇宙に関する研究開発機関が合併して設立されたらしい。
JAXAは共同管理の法人であり、内閣府総務省文部科学省経済産業省の4つでありJAXAの事業計画時にはこれら関係省庁すべての認可が必要。(調整めんどくさそう……)
JAXAは航空宇宙分野ということもあり、他の独立法人と比較すると年単位の研究の業績のプレッシャーは少ない。研究分野が直線的なせいかがでるものではないことから。評価をする機関は国民に対してのアカウンティビティが存在し、結果として尖った研究が行いにくくなっている。米国のNASAでは投資を募る機能を持っており、投資した資金を使って挑戦的な研究を行うことができるらしい。

……とまあとりとめのない内容。それもそのはず、この本はシンポジウムでの対談ベースにまとめた内容の本のようだ。本にするための会話じゃないから、今一つ読みごたえはなかった。JAXAの研究体制とか評価基準、歴史が知れたのはよかったけど。