孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

2024年3月に読み終わった本リスト

3月の本の感想の整理をさぼっているうちに気が付いたら桜咲いて、散って、GW突入して、抜けていました。

 

 

基準:

  • 当該月に読み終わった本が対象(※読み始めたのがその月とは限らない)
  • 最初から最後まで目を通した本を『読み終わった』と定義

 

昨月の記事:

2arctan-1.hatenablog.com

 

目次:

 

大規模言語モデル入門

二月くらいから読み始めて、三月後半にようやく読み終わり。

LLMの骨子となるTransformerの解説から始まり、GPTなどを始めとするLLMの基礎、パラメータ数やデータセット数の進展、ファインチューニング方法、各タスクごとの章の解説がされている。jupyter notebookでコードがまとめられており一緒に走らせることによって理解も深められる。何よりありがたかったのは2章のTransformerの解説で、ネット記事などで読んでピンとこなかった注意機構のイメージがようやくぼんやりと掴めた気がする。。。

 

参考(本書のgithub):

github.com

 

 

星を編む

『汝、星の如く』の続編にあたる1冊。図書館で同時に予約したら続編の方だけ先に順番が来てしまい、先に読むという形になってしまった……。

何というか、他者だったり世間だったりに最大限配慮したりして生きている人間のキモい部分が現れたキモい小説だった。つらつらキモいやつらの1ミリも感情移入できない論調や色恋模様が描かれていて、面白かったと言われれば素直に首を縦に振れないのだが読んでいて退屈はしなかった。大学院生から教師になった人の謎の自意識でリスクとって子供受け入れるくだりも、女性編集者の剥き出しの自意識もそうせざるを得なかった陰湿な編集部の環境も、『これからのパートナーのあり方』をご高説されてるかのような最後の夫婦生活がずっと流れていく章も、収録されている3本の章が全部もれなくじんわりとキモい。でもキモさに謎の納得感がある。人間とは本来こんなに狙ってもないのに何故かキモくなれるものなのだ。

前作は本屋大賞のはずだし、所謂『本好き』はこういう小説が好きなんですかね。余談になるけど同じ本屋大賞の推し、燃ゆは普通につまんなかったです。この本はつまんない訳ではありません、キモいだけです。

 

 

 

プログラマー脳 ~優れたプログラマーになるための認知科学に基づくアプローチ

認知科学の観点からどのようにプログラミングを習熟するかが書かれた話。記憶の分類を長期記憶、短期記憶、ワーキングメモリの3つに分類しており、それぞれに応じた混乱がコードを読むときに生じ、認知負荷がかかるとのこと。

コードを読む際の注意すべきポイント、注目すべき箇所などが解説されており、本書の内容を踏まえてコードを読めば三つの記憶のどこに負荷がかかっているかを炙り出すことができる。仕事でそんな難しいコードは書いてないけど、それでも人のコード見てウェッてなることは結構あるので試していきたい。

 

 

 

ゲーム界のトップに立った天才プログラマー 岩田聡の原点: 高校同期生26人の証言

HAL研から任天堂社長を務めた岩田聡氏の札幌南高校時代の同級生たちによる、回顧録。どうやら電子書籍のみの出版のようだ。

当時から頭が良すぎて授業そっちのけで9桁の数字が映し出されるだけの電卓で頑張ってゲームを作っていたり、未経験ながらインターハイや国体に出場経験もある強豪バレー部に入部し熱心に練習する(といっても補欠だったようだが)岩田氏の学生時代が懐古されている。岩田氏が当時から数字に強く、自前のプログラム電卓で試合のスコアやサーブ・アタック決定率を分析していたのも面白いしそれらが全く有効に使われていなかったのも面白い。卒業式に和服の仮装をして同級生の担ぎ篭を持ち入場するなど、おちゃめな姿の写真もあり岩田氏は意外とノリが良くてお茶目な人物だったことが本書からわかる。

岩田氏は亡くなる直前に参加予定だったバレー部の同期の集まりを多忙を理由にキャンセルしており、同級生ですらニュースで初めて容態が悪くて亡くなるほどであったことを知ったという。岩田氏の素の人物像の一面が色々うかがえる面白い本だった。

 

 

 

ルポ歌舞伎町

歌舞伎町の裏事情についてルポライターが取材した本。歌舞伎町の『思い出の抜け道』には中国人が隠れて住む意外な場所がある、ホストや風俗嬢のお金事情、黒人ぼったくりバーの店主への取材、風俗嬢へのストーカー撲滅を裏の仕事をする男……などトピックは面白そうなのだが、各章全体的に取材が浅くて絶妙に物足りない。週刊誌に載ってる三文記事のレベルを出てない感じ。

まあ本当にギリギリのところまで載せたらやばいと言うのは理解するが、とはいえ情報として表に出せないものが多いのならば、取材結果からせめて何か問題提起するなり自分の意見を出すなり、もうちょっとなんか書いて欲しかった。ネット記事に似たような内容ありそうだし別に読まなくていい本だと思う。(この人が原作の西成の取材漫画も1巻だけkindleで読んだけど全然全然面白くなかった)

 

 

 

AIファースト・カンパニー――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略

AIを活用した組織運用についてまとめられた意識が高そうな本。難しい理論自体はないのでビジネス書に近いが、組織運営的な話は結構マクロな視点で難しいところはあると思った。

Amazon、アントオフィシャル(アリババの電子決済の運用企業)、NetFlixMicrosoft、ウーバーなど組織運営にAI、ソフトウェア、分析を組み込んだ企業の事例を踏まえつつ、組織体制の重要さを語っている。データ収集→AIなどによる分析→意思決定による組織運用体制(オペレーティングモデル)の有効性や効力だけでなく、それがどのように既存のシステムと食い合うか、新たなサービスをいかに持続可能なものに成長させていくかなどが語られている。

 

 

 

GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた ドキュメントの活用でオフィスなしでも最大の成果を出すグローバル企業のしくみ

世界最大のリモート企業と呼ばれているGitLabの組織づくりが解説された本。今働いている会社もリモートメインの勤務体制であり、どれだけ世界的な企業と差があるのか気になって読んでみた。本書の内容のベースは一般にも公開されている『GitLab HandBook』にあり、ここにあらゆる情報が集約され更新されて一元管理されており揮発性の低い情報源となっている。

GitLabでは情報を集約するドキュメント文化、GitLab Valueと呼ばれる6つのコアバリューとそれに対応するアクションの定義を行い、さらにはそれを運用ルールに落とし込んで評価項目にも紐づいている。この徹底ぶりは中々容易には実現できないが、個々の周知を徹底すると強いんだろうというのは読んでいて想像できるし、今勤めている会社の運用体制ではこのレベルまでは到底徹底できていない。印象的なのは『昇進を望まないメンバーも働けるプランを用意する』『360°フィードバックを評価ではなく能力開発に使用する』など。GitLabなどの有名な多国籍リモート企業でもやっぱり人材をいかに定着させるか、成長させるかには苦心して工夫を重ねているんだなあと思った。

 

参考:

handbook.gitlab.com

 

 

 

年齢学序説

博多大吉が書いた本ということで、ブックオフで安く売っていたのを買って読んでみたけどあんまりだった。基本的には偉大なお笑い芸人は26歳でなにか人生の転機を迎えている!っていう内容で主張内容は都市伝説めいたものに近い(元々そういう番組の企画から書籍の来たんだとか)。ダウンタウンの『ガキの使い』、とんねるずの『おかげでした』、明石家さんまひょうきん族高田純次の代打でブラックデビルとして出演、華丸大吉の児玉清モノマネを始めた、などが全て26歳の時のことらしい。へ~。

まあ風呂敷を広げてミュージシャンだのプロレスラーだの漫画家など、様々な他ジャンルに広げていって26歳以降でも何かを成し遂げている人の例とかめちゃくちゃ出てきて、例外が沢山出てきて自分で自分の首を絞めるような形でグダグダと終わった印象。多分コラムくらいの長さなら面白い文章だったんだけど、単行本くらいの文量になるとボロが出ちゃうんだろうなぁと感じた。

年表とかもあって、芸能人や有名人の雑学を吸収したい人は話半分で読んでもいいかも。

 

 

 

 

確率統計を人に教えられる本: 対話形式でスラスラ読めるほのぼの確率統計学

かの有名なマセマの本。実は高校大学通してマセマ読んだことなくて、初めて読んだけど途中式がかなり丁寧に書いてあってとっつきやすくていいなと思った。

基本は高校レベルに毛が生えた確率統計の話だけど、その延長線で最終的にはマルコフ過程の基本の考え方まで触れていたりと割とありがたい。この本だけで集合~確率~統計~行列周りの基本的な計算方法はわかるが、詳しい導出や統計検定クラスの難易度の問題を解くにはもう少し上のレベルの本が必要になるだろう。頑張ります……。

 

 

 

マツダスカイアクティブエンジンの開発: 高効率と低燃費を目指して

マツダのSKYACTIVを開発した人見光夫氏が監修したSKYACTIV開発全般に関する本。ブックオフで気軽に買い、流し読みした。

当然技術的な話が深く載っており、理論の深いところを理解するのは難しいがざっくりとSKYACTIVが従来のガソリンエンジンでは理論上ありえないとされていた低燃費・高効率を実現したことは伝わってくる。その発端となったのが実験でガソリンエンジンの圧縮比を思い切って一気に上げた時に意外とトルクが下がらなかったといういわば極端なパラメータを振った時の偶然の発見に起因するものであり、業界の『常識』が本当に妥当かを疑うことの重要性がよくわかる。エンジンの機械設計・CAE・生産・エネルギー供給など総合的に語られており、車や機械工学周りに詳しい人には中々面白い本であるはず(そうでもない自分でも雰囲気は楽しめた)。