孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

図解 ひと目でわかる!日本アムウェイ【ブックオフ珍書発掘隊 その1】

ブックオフ珍書発掘隊!! 

 

 

さて、記念すべき第一回の珍書はこちら。

 

 

f:id:kaku90degree:20200517223212j:image

 

図解 ひと目でわかる!日本アムウェイ/日刊工業新聞社

日刊工業新聞社

2009年2月28日発売

購入価格: 210円(定価1,400円+税)

 

珍書度: ★★★

内容のまとも度: ★★★★

お勧め度: ★

アムウェイ会員目バキバキ度: ★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

本発掘記録の目次

 

 

1. なぜ本書を選んだか?

ずばり、『アムウェイ』という企業名そのものから出てくる胡散臭さ、タブー感に惹かれたからである。

日本に住む国民のうち、アムウェイ会員以外の人から嫌われているにとって謎に包まれたアムウェイという企業について知ることにより、新たな世界が開かれることを期待する。そのまま戻ってこれなくなる可能性もあるが……。

 

 

 

2. 書評

 2.1 本書の概要

本書はアムウェイという企業の経営体制や社会貢献の事例、商品の研究開発、ビジネスの仕組み、アムウェイの歴史の4章仕立てになっている。それぞれの分野について、保健体育の教科書に載ってそうな絶妙にチープな絵などを用いて図解で説明されている。

 

f:id:kaku90degree:20200529005318j:image

↑こんなセールストークで釣られる人が本当に存在するのだろうか……。 

 

企業内容の説明自体はまあ明快で分かりやすく、アムウェイという企業の力の入れどころについては理解することができる。しかしシラフの人間がこの本を見た時にまず目につくのは、日刊工業新聞社編集部のアムウェイに対する異常なヨイショっぷりである。

 

序文でアムウェイの口コミ商法を『これほど確実で製品の優位性を伝えられる方法はない』とべた褒めしたのを皮切りに、『時代がアムウェイに追いついてきた』『新しいコミュニティのカタチ』『頑張った人が報われる仕組み』と表現を変えて褒める褒める……。まあわざわざ紹介する企業の欠点を貶してもしょうがないのだが、それにしてもである。この本の楽しみ方として、お気に入りのヨイショフレーズを探してみると良いのではなかろうか。

 

さて、「結局アムウェイってどんな会社なの?」と思ってる人が多いと思われるので、本書から解読したアムウェイの概要について以下に記す。

 

アムウェイは1959年にジェイ・ヴァンアンデルとリッチ・デヴォスによって創立されたアメリカ本籍の企業であり、栄養補助食品や美容品、日用品などの消耗品をメインに取り扱っている企業である。その理由は『売れるから』というシンプルなものらしい。 

アムウェイの企業としての大きな特徴は、

 

 

の三つに分けられる。

垂直統合型企業自体はそれほど珍しくもなく、製品の品質を追求するのもまた企業としては当然のこととも言えるため、アムウェイという企業の最大の特徴は三つ目の販売手法にあると言ってよいだろう。

このうちの下二つの特徴について、次節以降で取り上げる。

 

 

2.2 確かに商品の品質にはこだわっていそう

元々事業家だった創業者の二人が アムウェイを設立するきっかけになったのは、『ニュートリライト』という現在のサプリメントの原型にあたる商品だったという。

 

f:id:kaku90degree:20200529011106j:image

 

カール・レンボーグという研究者が中国に軟禁されて草木などのスープを食して栄養失調から立ち直った際の経験を元に、栄養素を抽出した補助食品として発明した商品がニュートリライトである。

発売当時は栄養学の理解が進んでいなかったため全く売れなかったらしいが、口コミによる販売手法を取り入れることによって徐々に売れ始め、そこにアムウェイの創業者二人が感銘を受けて、ビジネスとして目をつけたわけだ。

 

ニュートリライトの原料となる植物の栽培は無農薬なのはもちろんのこと、ミミズに土壌を耕させて、てんとう虫に植物を守らせ、羊に畑の掃除をさせる徹底ぶりである。さらにあえて害虫を集めるための雑草地帯を農場に設けることにより生態系のバランスにもこだわっているという。管理が無茶苦茶大変そうだ。

栄養学の研究開発のための施設がカリフォルニア州に存在し、基礎的な栄養に関する研究はもちろんのこと、DNAレベルで個人の身体的特徴に合わせた最適な栄養を摂取できるサプリメントの開発などを行っているとのこと。つよそう。

 

さらにサプリメントの品質管理の基準に関しては、通常の食品の管理基準ではなくより厳しい医薬品業界用の基準に従って製造されているらしい。世界一売れていると自社ホームページでデカデカと宣伝するだけのことはしているようだ。

 

他にもアンチエイジングを売りにする化粧品やシャンプー・ボディソープ、洗剤、空気清浄機、調理器具などの身の回りを支える様々な製品が研究開発を元に製造されているが、気になる方は本書を読んで確認してもらいたい。

 

 

 

2.3 悪名高いマルチレベルマーケティング

製品の品質にとにかくこだわっているらしいアムウェイの特徴的すぎる販売方式が、マルチレベルマーケティングと呼ばれるものだ。

ディストリビューター』と呼ばれる会員が家族や友人などにアムウェイの製品の良さを語り、そして会員へと引き込む。会員に引き込み、アムウェイ製品を購入させることによってディストリビューターアムウェイから直接お金を受け取れるという仕組みである。

ディストリビューターとなるためには入会金8400円、それとは別に年会費3500円がかかるらしい(2020年現在は年会費3670円のみで初年度無料とのこと)。

ちなみに勧誘を行うディストリビューターの他にもアムウェイの製品を買うだけの会員となることも可能らしいので、もしかしたらアムウェイ製品を買うだけの会員なら目立ってないだけで我々の身の回りに意外といるのかもしれない……。

 

ただ単にディストリビューター個人による口コミのみで製品を売っていくのではなく、会員同士の数人で『グループ』を作り、パーティーやミーティングなどを定期的に開いて集団で布教啓蒙活動や製品の売り方の研究などを行っていくところにアムウェイ会員としての特徴がある。

会員はアムウェイの製品が好きであることは前提として、その良さをいかに周りの人に知ってもらって売るかという部分についても会員同士で常に議論が行われているようだ。

本書中で出てくるとあるディストリビューターは、アムウェイのことを『人間教育産業』だと言っている。こういったグループによるノウハウの伝授や新規会員を増やすことは金儲けのプロセスではなく教育という認識のアムウェイ会員もいるようだ。

キリスト教を遥か東の島国である日本まで布教しに来たフランシスコ・ザビエルなどの中世の宣教師もアムウェイ会員と同じような気持ちだったのかもしれない。

 

さて、それではディストリビューターの儲け方の仕組みの説明に移ろう。

 

ディストリビューター仕入れ価格でアムウェイから製品を仕入れて、それを利益を上乗せした価格で販売してその差額が収入となる。大体製品価格の20~30%が儲けとなるとのことなので、シャンプーとか洗剤程度の消耗品を数人に押し売りしたくらいでは大した儲けにはならないだろう。

 

アムウェイではこの製品販売による利益に加えて、新しく引っ張ってきた会員のアムウェイ製品購入金額を元に個別にボーナスを支給している。

自分が勧誘してきた新しい会員と自分はグループになり、子の代の会員がアムウェイ製品を購入した代金の一部も自身の利益になる。ボーナスの計算式などは少々複雑だが、基本的には沢山会員を勧誘して製品を購入してもらえればボーナスが多くなるシンプルな仕組みだ。

そして売り上げが高ければ高いほど会員としてのランクが上がり配当が高くなってゆく。ハイランクの会員になると海外セミナーに行けたりするらしい。夢があるな(棒読み)。

 

……このシステムの話を聞くに、すごくネズミ講っぽい話である。

 

アムウェイネズミ講と大きく違うと思われるところは子の代、孫の代……と繰り下がるにつれて儲けが膨らんでいく、という仕組みではないというところである。

 

f:id:kaku90degree:20200529011438j:imagef:id:kaku90degree:20200529011637j:image

 

図で示されている通り、自分の子の代の会員の売り上げおよび子の代の会員が作ったグループを独立させればボーナスが入るが、孫の代以降のグループの売り上げは自分には還元されない。

ネズミ講は最初に勧誘した子が孫を作り、そのひ孫、玄孫……と階層的に膨らむにつれて還元される金額が大きくなるのに対して、アムウェイは自分個人が勧誘した子供の数とその売上が一番大事になる。

つまり十分数の新たな会員を勧誘し、更に勧誘後も下のグループの独立を支援してアムウェイ製品を買わせ続けない限り儲からない、なかなかシビアな仕組みとなっている。

 

日刊工業新聞社編集部はこのようなアムウェイの仕組みを『頑張った人が報われる仕組み』と称し、『年齢、経歴などを問わないビジネス』と呼んでいる。まあ字面だけ見ればこれは正しいだろう。

 

しかし、会員数を増やすには疑り深い一般人を口コミやセミナーなどで囲い込む多大な努力が必要である。一回の説得であっさりと会員になってくれる人ならとっくの昔に入会済だろうと推測されるので、何回も何回も説得して地道に会員を増やすプロセスが必要となる。

本書で解説されているアムウェイのボーナスの比率を見る限り、実際的に副業として十分な収入を得るためには数人程度勧誘したくらいでは話にもならない。ビジネスとしてディストリビューターを本気でやるつもりなら、自身の全交友関係を質に入れるつもりで臨まなければならないだろう。

 

会員数推移

f:id:kaku90degree:20200528235954p:plain

http://www.amway.co.jp/about/company/data/index.html

 

さらに、公式ホームページの下のグラフを見るに、会員数は横ばいから減少傾向にあるようだ(2016年以降のデータは記載されていなかった)。

日本国民が1億数千人もいることを考えると、まだまだ会員数を増やしていくことは理論上は可能である。

が、アムウェイが1979年に日本に上陸してはや40年以上経つことを考えると、現行の非会員の中には「勧誘されたが断った」という人がかなり多いのではなかろうか。

 

 

このアムウェイの仕組みおよび背景を考えてみると、まだアムウェイが日本に浸透していなかった時にいち早くディストリビューターになって子会員を増やしまくったごく一握りの会員、そして胴元であるアムウェイ本社はかなり儲かるだろう。

そもそもアムウェイは製品の質を売りにし、製品を買い支える熱狂的な信者会員が日本だけで数十万人いるのだ。その会員の年会費と売上だけでも一定の収入が見込める。たとえ一部のディストリビューターによる強引な勧誘で企業イメージが悪かろうが、ここまでの地位を確立してしまえばそうダメージはないだろう。

 

アムウェイ製品に惚れ込むのはいいが、その製品を売り込むことによって飯が食っていけるかどうかは別である。

身内のアムウェイ会員の話を聞く前に、新規開拓の見込みや収益システムの弱点を自分の頭で冷静に考える必要があるだろう。その上で会員になるのならば、もはや何も言うまい。

 

 

……『自由』、『家族』、『希望』、『報われること』。

このアムウェイの創業理念に共鳴したソルジャーたちが、今日も新たな同志を増やすために、身の回りの人物に製品の使用を薦める「教育」を行っている。

もしかしたら私もあなたも、気が付いたらアムウェイの理念に共鳴する同志の一人になるかもしれない。

 

 

 

3. 総評

ヨイショは多めではあるが、アムウェイという企業についてそれなりに説明はされており、商品「は」ある程度しっかりしている会社だということが本書を読んでよく分かった。本の内容としては比較的まともな部類に入るだろう。

お金を払って専属会員になってまで、また会員の口コミやセミナーの勧誘に晒され続けてまで、アムウェイ製品を買えるのかどうか。それくらいアムウェイの製品を信頼し、心酔できるのか。

結局、この部分がアムウェイの大きなハードルであり、ハマった人がなかなか抜け出せない原因であると思う。

 

 

[http://]

 

 

余談にはなるが、この本の第二版のAmazonレビューを見てみたら絶賛の嵐で面白いので、見てみると暇つぶしにはなるだろう。

この本自体は、読まなくていい。

 

以上で第一回のブックオフ珍書発掘調査の結果報告を終了する。

 次はまた、一週間後の報告を予定している。願わくばここまで読んでくださった方々にまたお会いできることを願っている。

 

 

To Be Continued...