孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。 【ブックオフ珍書発掘隊 その14】

ブックオフ珍書発掘隊!!

 

 

2020年現在、最も学生からの志望を集めている職種、コンサルタント

高年収・やりがいがある・市場価値が高い・スキルが身につく……これらの観点から、素晴らしい仕事とみなされている。コンサルの明晰な頭脳による分析により、企業を建て直した例は数えきれないほど存在する。人からも尊敬される素晴らしい仕事、それがコンサルである。

今回紹介する珍書はこれらのコンサルを持ち上げる風潮を真っ向から否定し、「目を覚ませ!!」と横っ面をビンタしてくるような1冊である。

 

 

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 申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。/著:カレン・フェラン 訳:神崎朗子

大和書房

2014年3月24日発売

購入価格:210円(定価1,600円+税)

 

 

珍書度:★★

内容のまとも度:★★★★★★★

おすすめ度:★★★★★★★

意識高い横文字連発度:★★★★★★★★★★

机上の空論摘発度:★★★★★★★★★★★★

 

 

本発掘録の目次:

 

1. なぜ本書を選んだか?

コンサルという業務に対して私は無知である。

就活時もメーカー志望が強く「結局自分でもの作ったりできないなら意味ないや」と思って何となく志望業界には含めなかった。

だが現在、コンサルは最も人気のある職種と言っても過言ではないだろう。

 

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引用:

【6/1速報:東大京大・21卒就職ランキング】マッキンゼーを抜いた1位の企業の意味/人気ベンチャー新御三家 など|就活サイト【ONE CAREER】

 

 

2021年卒の東大生、京大生の就職人気ランキングを見ると上位はほぼコンサルが独占している。まあコンサルとひとくちに言っても戦略系や総合系などさまざまな種類がある訳だが、現在は総じて採用数が増加しその人気は衰えることは知らない。

特に高学歴の学生はこぞってコンサルを志望する、コンサルバブルが起こっているようだ。

その中で本書はマイケル・サンデルの『これからの正義の話をしよう』さながらにめちゃくちゃクソデカい文字で「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」というタイトルがドカンと提示されコンサルの持ち込む理論もチャートも改革も何の意味もなかったと言い切る本書は210円のビジネス書コーナーの中で隠し切れない存在感を放っていた。

 

「我々は何となく憧れだけでコンサルを過大評価しているのではなかろうか?」 

 

なんとなく本書のタイトルに洗脳されてそう思い始めてきてしまった無知な私は、コンサルの実態を暴くために本書を発掘することに決めた。

 

2. 書評

2.1 本書の概要

ざっくり言うと、本書のメッセージは脳死でコンサルの言うことを信じたら詰むということである。

著者はMITを卒業後、大手コンサルティングファームで30年間、戦略、オペレーション、組織開発、IT分野などの経営コンサルタントとして活躍してきたエリートキャリアウーマンである(本書中にも自分やコンサル全般が頭がいいというプチ自慢記述がちょこちょこ)出てくる。

その彼女が30年間コンサルとして様々な企業を支援した結果の集大成がこの一冊である。それでは目次を見てみよう。

 

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目次からも何となくわかる通り、これでもかというくらいに様々なコンサルの取る戦略や手法、人材管理をボロカスに言っている

本書は前半の3章が戦略開発など企業の経営・業務内容の改善に関するトピックであり、後半4章はタレントマネジメントと呼ばれるメソッドの解説から始まり主に評価制度、リーダー研修など人材関係のトピックが並んでいる。

大手ファームがいかに無意味な机上の空論を並べ立てているかという話とそれによる具体例が述べられたりしている。

戦略計画によって会社がポシャった事例や最適化プロセスの遂行で逆に管理コストがかかってしまったり、数値目標を掲げた結果数字を追い求めて社員の不正が横行したり、『客観的な』人事評価制度を導入した結果優秀な人材がむしろ不満を抱いて去っていったり……。

これらの事案から、著者はコンサル界で伝わってきた経営手法は間違いだったとまで言い切っている。モデルや理論を捨てて腹を割って話せ!という力強いメッセージが文章を通じて伝わってくる一冊だ。

 

 

2.2 机上の理論より目の前の人を見よ

 コンサルのやり方の批判という本のテーマ上、本書では様々なモデルや理論が登場する。そして、それらについて実にアメリカ的な皮肉を交えながら解説がされている。

 

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↑第2章の1番初めからしてこれである。

 

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↑要件が多すぎて読んでる途中でめんどくさくなっていく人の気持ちを端的に表した趣ある文章である。

 

 

もちろん、各手法や理論について用途やバックグラウンド、実際どのような場面で投入されたかなどの説明はなされている。それらを導入・適用したことによる理想に対しての、現実の顛末について容赦なく述べられている。

例えば2章や3章は経営やプロセス改善に関するコンサル事例が取り上げられているが、

 

杓子定規に改善手法を適用する→現場の実状に全くそぐわないので全く成果が出ない→事業売却

 

となってしまったケースが沢山出てくる。

たとえばメーカーでコンサルが販売した管理システムを導入し踊らされて、現場レベルでしょっちゅう生産計画の変更が起こってその対応でむしろかえって効率が悪くなってしまうといったケースなどだ。これは本末転倒を地で行くような例だろう。

紋切り型のソリューションを脳死で受け入れないために、筆者はブレーンストリーミングや部署間での意見交流によってボトムアップ的に改善策を出すという、人間同士の交流が大事だと言っている。

会社と言うものが様々な役割の部署が連携して成り立っている以上、それはまず第一にすべきことだろう。そして、それをせずにコンサルに丸投げするという企業が想像するよりもかなり多いことが見て取れる。

 

その他に企業・部署としての達成目標や人事評価など客観的な指標に基づく数字に惑わされてはいけないと著者は提言している。企業経営は人と人が関わる主観的な営みであり、客観的な指標というものは事実上存在しないからである。さらにそれらの目標や評価は各部門の視点によっても変わってくるため自社内で干渉を起こしてしまう可能性が高い。

売り上げ目標を達成するために客先と結託して年度末に大量売上を出したあとすぐに大量の返品を出されたり、人事評価の数字の優劣は結局上司同士の自分の部下の推薦圧によって決まったりなどがその例に挙げられる(人事評価の優劣でボーナスの分配が決まる以上、全員に『優』はあげられないからだ)。

人事評価の数字指標による決定はそれそのものに物凄い工数と調整が必要で、そのフィードバックも満足でないためむしろ優秀な人こそ不満を抱かれる場合が多い。恩恵を受ける人もいるだろうが、恩恵に対して負担が大きすぎる制度だと筆者は述べている。 

 

 

 本書を通して伝わるメッセージは自分たちの組織が抱えている諸々の問題に対して、コンサルタントに相談する前にできることがあるのではないかということだ。

本書で紹介されているようなコンサルタントが用いる理論や手法の一つ一つを単体で見ると理にかなっていたり効果的なものであるように思える。そして、実際にそれらの方策が効果的に働くケースも多数あるだろう(というかそれがコンサルの存在意義だし)。

しかしながら、それはまず自社内で話し合いしっかりと現状の問題点を認識し、理解を共有した上で成り立つことである。コンサルは仕事上、そうした連携が取れていない、それ以前の問題点を抱えた企業にも自社の商材などを売らなくてはいけないこともあるだろうし、顧客先の機嫌を損ねて担当を外されたりすることもままあると思われる。そうしたジレンマを長年経験した著者が注意喚起として執筆したのが本書の内容となっている。

 

 

3. 総評

総合的に見て、普通に楽しく読めてためになる一冊だった。

コンサルをただボロカスに批判しているだけのトンデモ本ではなく、まずコンサルに丸投げするより先にすべきことがある、博打を打つのではなく周りの人・環境をしっかり把握して話し合うといった人として当たり前のことを本書は伝えている。

我々は、数字に基づいた分析を見ると納得して、それが絶対のものだと思い込んでしまう。しかし、冷静に考えると数字が出てくる背景や前提を考え直した方がいい場合も結構多い。本書はその注意喚起を行ってくれる一冊となっている。

コンサル志望の学生などは有名な理論に関する本、ロジカルな思考を育むための本に加えてこういう本も一冊は読んだ方が良いのかもしれないと感じた。

 

 

 

 

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To Be Continued...