孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

0=∞=1 宇宙一美しい奇跡の数式 【ブックオフ珍書発掘隊 その15】

ブックオフ珍書発掘隊!!

 

 

『悟り』や『真理』に呼ばれるものに到達した人間は意外に多いという印象がある。そして真理に到達した(と自称している)人達の書いたその手の書籍は毎年のように出ており、宗教やスピリチュアルの分野に一山いくらで溢れ返っている。悟りとは、真理とは、一体なんなのだろうか……。

今回紹介する珍書は、この世の真理についてたった一つの数式で説明することに成功した素晴らしい功績を挙げた韓国出身の方が書いた1冊を取り上げようと思う。

 

 

 

 

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0= ∞=1 宇宙一美しい奇跡の数式/著: ノ・ジェス

きこ書房

2016年発売

購入価格:210円(定価:1,600円+税)

 

 

珍書度:★★★★★★★★★★★★★★

内容のまとも度: 

おすすめ度:★

何言ってるか本当に分からない度:★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

科学的根拠に基づいてる度:

 

目次:

 

1. なぜ本書を選んだか?

 

0=∞=1

 

見るからにやばい数式がでかでかと書かれた、タイトルからして只者ではないこの1冊。

義務教育で算数や数学に触れたことのある人なら、式を見ただけでまともな本ではなさそうだという感覚になるだろう。そんな本書はとあるブックオフで、何故か科学関連の本棚に混じっていた。0と1と∞を=2つで繋いだタイトルからしてもう嫌な雰囲気がプンプンするのだが、本書を開いてみると、

 

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まさかのケータイ小説みたいなペラい出だしで始まり猛烈に興味をそそられてしまった。

どうやら著者は韓国から日本へと渡り、どん底の生活の中でこの宇宙の『真理』に辿り着いたらしい。そして、その真理に到達するためのプロセスを科学的に解説してくれるという。

 

全てが怪しい1冊だが、シュールストレミング缶を開ける時のような気持ちで私は本書の読解に挑戦することにした。もしかしたら科学的なプロセスで悟りに到達できる可能性もゼロではないので。

 

 

 

2. 書評

2.1 本書の概要

本書はいわゆる宗教の本とは異なっている。

有名な宗教の台詞や科学者・哲学者の発言をかなり引用してはいるが、本書自身はあくまで科学的な視点で悟りに到達し人生を良くするための手法が説明されている(と筆者は主張している)

 

本書は4部構成+補足説明から成り立っている。

 

chapter1では著者が悟りに到達するに至るまでの反省が綴られた自伝となっている。この時点だとまあ胡散臭い韓国のおじさんが『日本に来て真理に到達できたよ!』と主張しているだけの微笑ましい文章である。

そしてchapter2以降では筆者のノ・ジェス氏と質問者(おそらく読者を想定しているのだろうか)の会話形式の文章になっており、徐々に筆者の主張を追体験しながら理解できる内容となっている。

会話形式で自身の理論を解説する著書と言えばガリレオが書いた『天文対話』などを彷彿とさせるが、それほど上等なものではない。

質問者は我々の立場に立ってるかと思いきや異常に物分りがいいので、読んでいて全然訳が分からないところで「なるほど!そういうことか!」と納得してどんどん先に進んでいくからだ。うかうかしていると読者はたった数ページの間に置き去りになってしまう。

そういう意味でスピード感が非常にある1冊である。

 

一応、会話形式での説明が理解できなかった時のためか、ある程度まとまった図を用いた説明が巻末に補足として追加されている。これはありがたい……と思って読んでみるが、これも全く意味がわからない。

パラパラと読むだけだったら1,2時間あれば読み終わるだろうが、『何を言いたいのか』解釈を行うためにその倍以上の時間は使ってしまうといった印象である。

以下の節で本書のわかりにくさはどこから来ているのか、そして本書が伝えたいと思われる内容を解釈してみたのでご参考にしていただきたい。

 

また本書は、様々な科学者や哲学者の名言を引用してそれっぽく作っているので私もそれに倣って各節のタイトルはお笑い芸人の面白フレーズから引用した。こちらもご参考にしていただきたい。

 

 

2.2 俺がもし謝ってこられてきてたとしたら絶対に認められてたと思うか? --かまいたち山内

 本書の大きな問題点としては、「本当に何を言っているのかわからない」という1点に尽きる。

日本語で書いているはずなのに、会話形式で分かりやすく書かれているいるはずなのに、何を言ってるのか全くわからないのだ。

最初の章は筆者の生い立ちから悟りに至るまでのヒストリーなので(胡散臭いエピソードが沢山混ざってるが)まだ良い。

問題は会話形式となる2章以降だ。対談の始まりは一つの質問から始まる。 

 

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瓶の中で孵化した鳥を瓶の外に出すためにはどうすればよいか?という問いである。訳が分からないが、なんだかGoogleの面接で聞かれそうな質問である。

 そして筆者はこの問題を解くカギは認識方式、つまり個人の認識の仕方にあるという。

発想の基準を万物があるのではなく、ないという方面に置くことによって悟りのベースが開かれると筆者は説いている。考えというものは、すべからく質問があり答えを求めて動いているのだから問題設定の質が人生を決めると言って間違いないと続く。

 

その後も現実とは何か?認識とは何か?などの哲学や宗教で良く問われるような問いを次々筆者が出していき、脇道に逸れまくりながらもそれに対して質問者が考えて答えていくという感じで爆速で話は進んでいく。

 

スッと説明していけばまだついていけそうなものを、「〇〇についてどう思いますか?」、「××だとこういう風に考えられていますが~~」などと話があちらこちらに脱線してその一つ一つのメッセージが訳が分からないので余計に話がこんがらがっている。読者のことを全く考えていない散文の典型といった文章である。そして、恐らく筆者は敢えてこれをしていると思われる。

よく読むと真理を証明する数式とタイトルで謳っている割には具体的な科学的導出は一切ないし、提唱している概念も仏教等に影響を受けた万物流転に毛が抜けたものである。敢えて難解かつ解読が難しい構造に落とし込むことによって、読み手に「よくわからないけどなんかすごそう」と感じさせるように私には感じられた。

 

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↑筆者の頭の中ではもう既に物理学の理論は完全に統一されている。重力を統合した時に生まれる∞のエネルギーはおかしくないと主張しているからだ。

 

 

物理学の大統一理論を下敷きに、万物が存在しないのになにもない真空エネルギーは∞に発散することから0=∞を主張している。急に科学っぽい話が入って余計に訳が分からなくなる。これらについては巻末に補足説明がなされており、次節で詳しく取り上げる。

 

 

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↑後半になってくると、筆者の主張が激しくなりすぎて急にデカい声でキレだすやばいおじさんになってくる。文章のノリに狂気を感じる。

 

 

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最終的に最初の質問の答えとして、鳥もビンも宇宙も自分も一つで、存在しないという結論を得る。

雑にまとめると人生の価値観をシフトして、宇宙との繋がりを感じながら生きていくことで人生を良い方向に持っていこう!というのが本書のざっくりしたメッセージだと思われる。グダグダと書いていたが、本質的なメッセージは様々な宗教などが提唱しているところとあまり変わらない。

 

 

2.3 割り切れた!円周率は2や --金属バット小林

本書の主張を可能な限り整理することを試みてみよう。

本書は悟りに科学的に到達するためのプロセスを解説した一冊であることは先ほども述べた。科学的にという言葉をどういう意味で使っているのかはわからないが、恐らく再現可能ではあるのだろう。

 

筆者曰く、この世の万物は全て一つのものでできている。あらゆる物質を分解していくとひもに辿り着く(ひも理論からの引用ですね)。そしてひもの振動の波をより分けて いくと波のないフラットな世界、非存在の世界に到達し、その日存在の世界にあるひとつだけのものの実体は動きそのものだという。その動きとは何か、ということになるが中外ひっくり返る五次元の動きらしい。

N極とS極の磁石をいくら切り取っても片方だけの磁石にならないように、この世のものを還元していくと無と有どちらにもなる五次元の動きになると筆者は力説している。ちなみに五次元とは具体的に何を指すのか本書では触れられていない。

そしてその動きというものは人間の脳では認識できないくらいに速いらしい。これを本書ではサムシンググレートと称している。

……動きというからには何かしらの微分であるのだろうと素人としては思ってしまうのだが、そのベースは何なのだろうか?位置の変化なのか時間の変化なのか、それとも別のパラメータの変化なのか。

 

 

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 ↑縦軸の波の高さ(重ね合わせた振幅?)が何に相当するかわからないし横軸も何なのかわからない、とても気持ち悪い図である。

 

 

極限まで万物の最小構成単位を追求すると、0=∞に到達することが下記の図から説明されている。最小単位の世界では、波のない『ひとつ』が現れるから両者は等しいらしい。この部分は全く理解できないのだが、まあそういうものなのだろう。

 

 

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↑0=∞を説明する概念図。最も大きい世界は外側がない(=∞)。そして最も小さな世界には内側がない(=0)。最小構成単位では世界は本質的に一つであるため、0=∞が成り立つらしい。いや、等号では結べないだろ。

 

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 ↑素粒子論を超えて最小単位まで物事を分解していくと万物は一つ。その存在は∞と0を行き来していて、それゆえ0=∞=1。は?????????

 

 

 結局のところタイトルに書かれていた『0=∞=1』という数式は筆者のイメージする宇宙像から吐き出された表現であって、数学的・物理的な導出は(少なくとも本書では)行われていない。

 

現在世に広く知られている数式や理論は、世に公開され長年の議論を経て生き残った歴戦の猛者である。厳しい議論を生き抜いた理論のみが現在『常識』として語り継がれているのだ。本書の数式や理論は、その前提に立てるようなものでは残念ながらない。

悟りを理解するために筆者は前述した世界観の考え方として『HITOTSU』というイメージ言語(概念とほぼ同義だと思われる)を使用した、と自称している。が、それはただの説明になっていないお気持ち説明に過ぎない。

少なくとも21世紀現在において、本書の記述に科学的な妥当性は存在しない。筆者の考えが将来的に科学的に評価される可能性はもちろんゼロではないが、少なくともこの本の内容だけでは議論の対象に上がる前にリジェクトされて終わってしまうだろう。

 

 

3. 総評

15回にわたって取り上げてきたブックオフ珍書発掘隊の中でもトップクラスの怪書と言える1冊である。

その概念の説明は我々の理解や科学を遥か超えている。科学的というのが本書のウリのひとつだったはずだが、どうやら22世紀の科学的手法だったようだ。21世紀を生きる私が理解するにはまだ早すぎた。

 

 

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なんと本書はkindleunlimitedで無料で読むことができるKindleを利用している人なら誰でもこの美しすぎる数式の難解すぎる概念に触れることができるのだ!これは読むしかないだろう。

 

ネットで『ノ・ジェス』という名前で検索すると筆者のホームページに辿り着くことが出来る。

 

www.noh-jesu.com

 

令和哲学という題目で、金持ち父さん貧乏父さんの作者ばりに胡散臭い顔をしているこのおじさんが著者である。メルマガやオンライン会議、さらには28日間の教育プログラムなどがラインナップに並んでいる。

科学的な如何は置いておくとして、世をよくするために非常に精力的な活動をされているようだ。本書内でもかなり人生・人の世に関する自論が強かったのでまあ納得である。

 

……さて。

 

本書で解説された数式がコペルニクスニュートンアインシュタイン以来の大発見』になるかどうかは恐らく百年後にわかることだろう……。

 

 

To Be Continued...