孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

2024年11月に読み終わった本リスト

この月は誕生月でした。

 

 

基準:

  • 当該月に読み終わった本が対象(※読み始めたのがその月とは限らない)
  • 最初から最後まで目を通した本を『読み終わった』と定義

 

昨月の記事:

2arctan-1.hatenablog.com

 

目次:

 

指標・特徴量の設計から始めるデータ可視化学入門

今年読んだ本の中でもベスト格だと思う。めちゃくちゃ参考になった。

データを『見える化』するという観点において、指標や特徴量の使い方やアンチパターンなどが豊富な図例で解説している。可視化にはデータの特徴を多くとらえるための探索志向データ可視化と見せたいポイントを絞った説明志向データ可視化があり、目的に応じた使い分けについて各手法の解説と合わせてまとめられているのがありがたい。この本はエンジニアやってて客先に技術検討成果を紹介する仕事をする前に読みたかったな~と思う。

 

 

リーダブルコード ―より良いコードを書くためのシンプルで実践的なテクニック (Theory in practice)

今更取り上げるの?ていうくらいのプログラマーなら誰もが読んでるレベルの名著。実際スッキリしてて分かりやすかったし、そこまで難しいことは書かれていない。

大きくは変数名だったりインデントだったりのすぐできる表面改善、ループやロジックを単純化する改善、そして共通部を括り出したりするコードのリファクタリングの3つの観点の改善ポイントがまとめられ、4部で実際のテストやコード改善の話が述べられている。コード書く時に多分傍らにこの本を置くなりして、忙しい時にも忘れないようにしないといけない。気を抜くとコードはすぐスパゲッティになるので……。

 

 

データサイエンティスト・ハンドブック

2016年くらいのかなーり古いデータサイエンティストの指南書みたいな本で、IBMのデータサイエンティスト陣が執筆している。今現在言われてるような内容と大きくは変わってないが、技術手法解説の中にまだディープラーニングの内容は入っていないのが時代を感じる。

本書によると、データサイエンティストの要素としてビジネス力/データエンジニアリング力/データサイエンス力の3つを定義しており、どれかに強みを持ちつつもどれもある程度備えていることが必要だという。3部では組織構造と育成についても述べられており、専門組織を持つか部署横断でやっていくかのメリットデメリットについても語られていて、実際スキルを持つ人材をどこで持つかというのは多くの事業会社が頭を悩ませてるポイントだと思う。

 

 

こころでつくるAI はじめての未来をつくる私達

9DW(九頭龍が名前の由来でnine head dragon worksという正式名称らしい)というベンチャー会社の出した本。

この本の筆者である井元氏はセキュリティ・海外へのデータ情報流出を防ぐためにAIのフレームワークAPIを使うのではなくフルスクラッチでの開発にこだわっており、また将来的には映像・音声・文書など様々な情報をリアルタイムで処理せねばならないため汎用型AIの開発を最初から目指している。その成果が、IYOという独自AIに集約されているという。

具体的なAIの中身だったり他社と比べた独自性がどのようにあるかなどの話は本書内にはほぼなく理想ばかり語られており、AIかじっている身としてはかなり不安があり『なんか危なそうな会社だな……』という匂いがプンプンする。APIを使わないフルスクラッチ開発は構築し運用するのにめちゃくちゃコストがかかるし、マルチモーダルなAIだとスモールゴールは設定しにくいだろうからだ。また、世界的なAIトレンドに対して特化型AIの積み重ねだとAIごとに場所を取りスケーラビリティが大きいという話も疑問符がつくし、AIモデルを動かすサーバーが国外にあったら推論時にデータが流出する恐れがあるというのは正しいと思うが、それが既存のフレームワークによるAPIを使用することによる開発効率化に取り組まない理由にはならないなと思った(既存フレームワークAPIだとモデル構造や処理の仕方がオープンソースとして公開されていることから、ハッキングされることを懸念している?)。総じて、崇高な理想はわかるんだけどそのためにめちゃくちゃ本質的じゃない手間をかけている印象で、アウトプットをきちんと出すのに苦労しそうだなという印象を受けた。私ならこのAIベンチャーでは働かないだろう。

ちなみに一応今もホームページはあるが更新が2019年で止まっていたり、共同で開発開始と書かれていたプロジェクトの続報が一切なく恐らく何らかの理由で頓挫していたり、社員インタビューに出てきたCTOの人が別会社に転職してデータサイエンティストになっているのを見かけたり……と色々とお察し。

 

 

物語でわかる AI時代の仕事図鑑

5章からなるAIなどが普及した2030年の働き方をイメージした小説のようなもので、巻末には未来予想の元になったソースとなるデータやニュースなどの解説が載ってる。話としてはシビアなところが結構あってそこそこ面白かった。

自動車会社から電動モーター会社の工場長に転職した女性、メガバンに勤める主任の男性、九州の市役所の社会福祉課で働く係長の女性、カーナビなどの車載機器開発から漁師になった女性、岡山で保育士をしながらたまに弁護士活動をする男性という多種多様な各章の主人公たちが2030年のAIが普及した世界の中で色々と苦労しつつ仕事をしている。この主人公たち、全体的に仕事で苦労していたり状況があんま芳しくなくて言ってることが話の展開は暗くて、特にあんまり状況が変わらないまま少しだけ心が前向きになったとこで話が終わるので物語と言うよりはその時代の状況の人々の日常を切り出しただけという感じ。

 

 

 

近大革命

近大の広報責任者かつ近大創業者世耕弘一の孫である筆者が近大を受験者数1位に導いた仕掛けが書かれた本。頻繁に出てくる大学広告やプロモーション戦略がエネルギッシュであり近大のギラギラ感が伝わってくる。

筆者は元々近鉄で広報課長としてプロモーションやリスクマネジメントに携わった経験があり、また筆者自身は大学受験をせずに同志社系列校で進学した(お前近大ちゃうんかい!と思ったけど付属校で勉強してなさすぎて近大の過去問が全然解けなかったらしい)というバックグラウンドから、フラットな視点で大学受験産業や大学の広報について改革を成し遂げていく。筆者が盛んに語っているように大学には産近甲龍関関同立、あるいは旧帝大などととにかくヒエラルキー構造が長年固定化されておりそれが受験に影響していると語る。

筆者は漫然と出している無料誌などの特徴のない広告を削り、予算を電車広告などの訴求力の高いところに絞りインパクトのある広告を打ち出す戦略に出てそれが大きく反響を得た。また、当時は反応の薄かったネット出願を出願料を割引してアピールして移行に成功し、連続で志願者数全国一位を獲得するなど実績はすごい。近大はレストランも出てるしマグロで儲けてるイメージがあるが、実際は大学収入のわずか数パーセントに過ぎず半数程度は大学病院の医療費だそうだ(医療って儲かるんですね)。広告の重要性が感じられる一冊であり、その関係の人は読んだら得られるものが沢山あると思う。