ブックオフ珍書発掘隊!!
様々なジャンルの本を取り上げているこのブックオフ珍書発掘隊であるが、今週は『食』に関する本を取り上げていきたいと思う。
といっても、料理本などではない。今回はみんなの大好きなラーメンにまつわる珍書である。私も大好きな店に関する著書なので、発掘調査が楽しみである。
2013年9月18日発売
購入価格:110円(定価820円+税)
珍書度:★★★
内容のまとも度:★★★★
おすすめ度:★★
内容まとまってない度:★★★★★★
村上が書く必要度:
本発掘録の目次:
1. なぜ本書を選んだか?
本書は人気お笑い芸人であるしずるの村上純が書いたラーメン二郎に関する書籍である。
そして、少しだけ炎上してネットニュースなどになっていた問題の一冊でもある。
その理由は、村上が本書をラーメン二郎のオーナーに断りなく出版したからだというのだ。
裏表紙の村上の少年のような笑顔を見ていたら、「どんな気持ちで無許可でこんな本書いたんだ……?」と興味が湧いてきた。
村上は二郎大好き芸人として劇場でイベントなどをやっていたらしい。このことからラーメン二郎について定期的に語り、ファンの支持を得た経験があると言えるだろう。
とはいえ素人の一芸人が、店舗ごとの個性が強すぎる『ラーメン二郎』を様々な観点から語りつくすというのはある種無謀なコンセプトに思える。
読む前からなんだか地雷の予感がするのだが、そこを敢えて踏み抜く勇気がブックオフ珍書発掘隊には求められるのだ。
それでは参ろう、死地へ。
2. 書評
2.1 本書の概要
本書はラーメン二郎に関するあらゆるウンチクや村上の経験・感想などをふんだんに一冊に詰め込んだ、マシマシな一冊である。
内容としては村上が思うラーメン二郎の哲学、二郎(インスパイア系含む)の歴史や系譜、二郎の食べ方や作法、二郎を構成している食材の要素と分類、店ごとの大まかな特徴とレビュー、より発展的な二郎の楽しみ方、さらにおまけとして二郎の全店マップや年表までついている。
関係者ではない一個人が特定の飲食店について書ける限りを書いたかのような膨大な量だ。さすがは人生で大事なことをラーメン二郎から学んだ男である。
↑折り込み付録の二郎マップには2013年当時の全38店舗の所在および簡単な特徴が記されている。今はもうなくなってしまった店もちらほら……。
本の内容としては、ラーメン二郎をあの手この手で絶賛したり、店舗ごとのラーメンや雰囲気の特徴を述べたり、通い詰めるとこういう特典(優遇自慢)がある、などといった村上の経験に基づいた二郎の紹介が多い。
食べ物の話であるために主観的になるのは仕方がないのだが、基本的に本書は多岐にわたる内容が裏目に出てしまって、まとまりや一貫性がなくつまるところ「で、何が言いたかったの?」というところが多い。
そしてまとまりがないくらい内容が雑多な割には、明確に足りない部分も見受けられる。これらの話については後ほど詳しく述べたいと思う。
本書の内容とは直接関係のないおまけ部分に相当する二郎マップや年表、各店ごとのざっくりした特徴などはそれなりに役に立つと思う。
ネットで調べたら店ごとの特徴のまとめなどはもちろん出てくるのだが、スマホなどで数十店舗ある二郎の特徴を見るのは少し面倒くさく時間がかかる。紙でひと目でわかるのはメリットがあると言えるだろう。
2.2 丼からはみ出るくらいのまとまりのなさ
最初に述べたとおり、本書は量こそ多いが全体的にまとまりがない。
本書の主題はタイトルが確かであるのならば、村上がラーメン二郎から学んだ人生の教訓のはずだ。
しかしながら実際の内容はラーメン二郎をひたすらヨイショしているだけの内容となっており、正直あまり中身がない。店員のぶっきらぼうさなど、普通のラーメン屋ならかなりあれとされるポイントも『これも二郎の醍醐味!』と言わんばかりに褒めている。あばたもエクボってやつだろうか。まあ私自身も二郎は好きなので気持ちはわかる。
本書の主な特徴として、村上は自身の持てる引き出しを総動員するかのごとく二郎に対して様々な『たとえ話』を使って絶賛している。
そしてそのたとえ話は、正直なところ結構滑っている。
たとえば二郎を人気の国民的アイドルグループになぞらえたり、もっと直接的に女性とのセックスになぞらえるくだりがあるのだが、その内容を活字で見ると別に誰が見ているわけでもないのに勝手に羞恥を覚えてしまう。
恐らく、同じ内容をアメトークの『二郎大好き芸人』とかで喋ってたら笑いが取れていたのかもしれない。だが、活字で見るとその内容はかなりきつい印象を受けてしまう。これは活字とトークという媒体の違いが生んだ悲劇ではなかろうか?
↑(^^;)
文章の内容からあの手この手で様々なたとえ話を挿入して、二郎の良さをこちらに想像させようとする気持ちは伝わってくる。
しかしトークと活字で感じる温度差により、結果として読んでいると地獄のような空気が心の中に生成されてしまう。そこら辺を意識して書いてくれればもう少し面白い1冊になったのではないだろうか……。
本書の主題から逸れる後半部分ではラーメン二郎の食材の店ごとの特徴や、地域ごとに点在する二郎の店ごとの特徴などがまとめられている。こちらは個人的には読んでいて多少は役に立つなと感じた。
私は二郎の店舗で行ったことがあるのが数店舗くらいしかないので、素直に「店ごとにこんなに違いがあるのか」と読んで感じた。豚の種類やスープの乳化具合、量の多さや店舗限定メニューなど様々なばらつきが店ごとにあることが本書を通してよくわかる。
店舗ごとの特徴描写の詳細さで村上のお気に入りの店が何となくわかってしまうのはご愛敬だ。
2.3 店側の視点というカラメが足りなかった……
文量が多くてまとまりがない一方、本書は一冊の本にするには決定的に足りていない部分がある。
絶対に欠けてはいけなかったのは山田拓美氏からの正式な出版許可だが、それ以外にも店側からの視点が決定的に足りていない。
本書にラーメン二郎の店主との対談などがもし入っていたら、それだけでも内容はかなり締まったものになっていただろう。そして少しでも本書に対して店側から何かフィードバックが入っていたならば……そう考えていくと結局はキチンと許可をとって取材に協力してもらえばよかったという結論に達する。
ファン側からのみの意見というのは得てして独りよがりになりがちだ。
村上の書いた二郎に対する文章には愛はあるかもしれないが、客観性や面白味が欠けている。ラーメン二郎の店主などとのエピソードも入っているが、それはあくまでも思い出に過ぎず、村上側からの視点のみの話に過ぎない。
このような事態になってしまった原因は、やはりラーメン二郎側がメディア規制を行っているからだろう。
そもそもラーメン二郎側が取材に協力してくれないのに出版を強行した以上、こうなってしまったのは自明の理であったと言える。
本書は二郎ファンである村上が二郎のことをファン目線で語っているいわば非公式の一冊である。一応正式に二郎側から許可を貰わずに出版しても大丈夫と言えば大丈夫なのだろう。しかしながら、それは限りなく黒に近いグレーな行為ではなかろうか。
ネットニュースにも上がっていた通り、この本の出版を報告しに行った村上らはオーナーの山田拓美氏に怒られたようだ。
メディア露出を禁止しているはずなのにこのような形で出版されてしまってはそれは仕方ないともいえる。実際には出版の通知関係でミスがあってそれがトラブルにつながったらしいが、出版から数年以上たった今ではその真相は闇の中である。
2.2節で述べたように本書の内容は多岐にわたっていて、ページとしては結構な文量になっている。なのに、店側の視点という根本部分が足りていないから説得力や面白みには欠けている。
結果として本書はカラメが足りていなくてやたらと味が薄い、もやしだけがやたらに多いハズレの二郎系インスパイア店のラーメンのような一冊となってしまったのだった。
余談になるが、本書の後書きの謝辞にはラーメン二郎関係者の名前は入っていない。
3. 総評
ラーメン二郎そのものの情報量が多すぎたこともあるのだろうが、全体的にまとまりがなく、そして感覚的なレビューが多すぎて、村上本人が伝えたいラーメン二郎の魅力が1/3も伝わっていないように感じた。
一方で著者である村上がラーメン二郎が好きなんだろうなというのは文章を通して伝わってくる。そのため世間一般でイメージされているような、無許可で二郎の名前を借りて金儲けをしようと出版した邪(よこしま)な本ではないように感じた。
この本と同じ内容を、テレビだとかラジオだとかイベントだとかで実際に彼が喋っていたのならまた印象は違っていたのではないだろうか?あるいは雑誌のコラムで連載されているくらいの長さだったら気軽に読めてよかったかもしれない。
つまるところ、店側からの協力が得られていない状態で色々なことを語っているのだが、一冊の本にするにはそれだけではさすがに無謀だったといった印象である。
しずる自体はキングオブコントに何度も出場して好成績を収めている実力派芸人であり、ネタも面白いものが多い。
YouTubeチャンネルに沢山ネタを上げているので見てみて欲しい。
↑キングオブコント2012でも披露していたが、このネタはかなり完成度が高いと思う。
そして何よりラーメン二郎は賛否こそ分かれるが、一度は行ってみるべきラーメン屋さんだとは思う。二郎を好きな人がなぜ二郎が好きなのかは、実際に食べる体験を通してみないと理解できないだろうと私は考えている。
本書の出版から数年たった現在、新たにできた店や畳まれた店があったりして二郎の勢力図はまた変わっている。可能かどうかはわからないが、ラーメン二郎側の許可を得た上でこの本の改良版みたいな一冊が出版されたら面白いのではないだろうか?
それを書くのは、別に村上純である必要はないが。
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To Be Continued...