ブックオフ珍書発掘隊!!
英語という科目が苦手な人は多いのではなかろうか?
中学入学と同時に始まる英語の授業というものは、そのスタートにうまく着いていけた人間はどんどんルールを覚えて上達をしていくのに対し、着いていけない落ちこぼれはいつまで経っても中学英語レベルでまごついてしまう。
さらには英語は文理を問わずほぼ全ての高校・大学受験で必須となる科目であるため、進学を希望する以上避けては通れない超重要科目である。
そのため、予備校の英語科目には様々なカリスマ講師が熱を持って受験生に英語を教え、志望校や習熟度のレベルに合わせた英語の参考書は書店で常に山積みになっている。
今回紹介するのは大手予備校の有名英語講師が執筆した画期的な英語ノベルである。
英語が苦手なあなたも、得意なあなたも、物語を楽しみながら英語の勉強ができることだろう……保証はできないが。
霊感少女リサ/安河内哲也 a.k.a. Ted Eguchi 著
ナガセ(東進ブックス)
2012年10月29日発売
購入価格:210円(定価600円+税)
珍書度:★★
内容のまとも度:★★★★★★
おすすめ度:★★★
ニューク〇ウン度:★★★★★★★★★
物語の内容薄い度:★★★★★
Contents:
1. The reason why I choose this book
私は珍書というものはいかなるジャンルにも存在すると考えている。
その中でも受験参考書というものは人生に直接かかわる一大イベントであるため、非常に需要が高くそれ故競争も熾烈である。毎年毎年、読み手のレベルに合わせた様々な参考書が出版されておりその中にはユニークなコンセプトのものも多い。
本書は抜群の進学実績を誇る大手予備校の一角、東進衛星予備校の人気講師である安河内哲也氏が執筆した一冊である。
林修氏の大ブレイクを皮切りにテレビ界に進出していった個性の強い東進講師陣。
林先生以外はもうほとんどテレビから消えたのだが安河内哲也氏は英語の人気講師として現在もちょこちょこテレビなどに出ている。もちろん東進衛星予備校内でも元気に英語の授業を行い、英語に限らない様々な書籍を出版し精力的に活動を行っているようだ。
ハッキリ言って過去の成績なんか関係ない!
間違うことはいいことだ!人間間違わなかったら進歩なんてないでしょ!
英語なんて言葉なんだこんなもんやれば誰だってできるようになる!
安河内哲也氏の熱い言葉と的確な授業に魅了される受験生は多い。まさにカリスマ講師である。
そんな安河内哲也氏が東進バブルの絶頂期に出したのがこの『霊感少女リサ』である。
この本が出版された当時、私はちょうど現役の受験生で東進衛星予備校に籍を置いていた(安河内氏の授業はとっていなかったが)。同じ校舎には安河内氏の授業を取っている同級生が何人もいたが、誰一人としてこの本を買っている人はいなかった。
熱狂的な安河内信者だった同級生も、買っていなかった。
「安河内哲也が英語でライトノベルみたいな本を出したらしい」という噂だけが校舎内で先行していたが、実際には身の回りでは誰も買っていなかった記憶がある。
本書は私の通っていた東進内で少しの間話の種になりそして瞬く間に忘れて、やがてみんな受験して大学生になってしまったのだった。まあ私は全落ちして浪人したのだが……。
月日は流れ平成が終わり令和二年。
いつものように近所のブックオフに発掘作業に出かけると安河内哲也氏が出したあの英語のライトノベルが、210円参考書コーナーに押し込まれていた。
「あの時拾ってやれなくてごめんよ……」と言わんばかりに、私はその本をそっと手に取り、抱きしめるようにレジへと持って行った。
2. Review
2.1 Outline of this book
本書は『小説を読みながら楽しんで英語が勉強できる』をコンセプトにした軽めの英語小説である。
先程も触れたとおり、本書は安河内哲也a. k. a. Ted Eguchi氏が執筆している。
Ted Eguchi...???????
……どうやら、このような英語小説を書く時には別名義になるようだ。
恐らく島田紳助がヘキサゴンファミリーの歌詞を書く時には『カシアス島田』になったり、新垣隆氏が作曲した曲が『佐村河内守』名義になったりするのと同じ仕組みだろう。
本書は8章からなっており、半分が英語本文、半分が日本語訳となっている。ストーリーとしては交通事故がきっかけで霊感に目覚めた盲目の少女リサが、死者たちを次々と救っていくというものとなっている。
以下2.2節にて物語部分について、2.3節にて英語の教材としての評価について解説する。
2.2 Simple and monotonous story
ある程度シンプルな英語で書かれており、かつコンパクトにまとまった一冊であるため、本書は話の内容としては別段面白いわけではない。基本的に話は単調であり、あっさり事件が解決したり話が終わったりする。novel(小説)としてはそこまでnovel(斬新)なものではない。
しかし、内容を冷静に見るとそんなに面白くないけれども『英語』で読むことによってその面白くなさはうまく軽減されているように思える。
母国語でない英語がスラスラと読めることによって一種のカタルシスが得られるからである。
あまり凝った難しいストーリーになると英語の言い回しそのものが難しくなってしまったり、あるいは話の内容を理解することに頭のリソースが割かれてしまうため、スラスラと読める英文にするのは難しいだろう。その意味ではある程度シンプルで分かりやすい話にすることは『英文多読』を推進する上では必須と言えるだろう。
まあ肩肘張らずに、綺麗なイラストを見ながらスラスラ読んで気持ちよくなるのが一番良い読み方ではなかろうか。
↑要所要所に入るイラストはなかなか綺麗である。ライトノベルなどの挿絵をよく書いているイラストレーターの碧風羽さんという方らしい。
本書のストーリーの流れとしては、基本的にリサが死者の声を聞いてその内容を元に事件を解決するといったものである。
行方不明になっていた男の子の遺体を探し当てたり、未来予知をして自殺する同級生を救ったり、殺人鬼である先生の家から脱出を試みたり……。
なかなか概要だけ聞くと面白そうではある。全て平易な英語の文章であっさり終わるため、読みごたえがあるわけではないが。
余談だが、本書の主人公であるリサはめちゃくちゃすごい少女である。
すごいのは霊感ではない。まあ死者の声が聞こえるのもすごいのだが、目が見えないとは思えないくらい行動力があり、健常者でもなかなかやるのが難しい行動を平気でやってのける。
具体例としては、目が見えないはずなのにこっそり職員室に忍び込んで先生のデスクの引き出しに入ってたものを取り出したり、殺人鬼の先生の家で普通にトイレを借りて携帯電話で助けを求めたりしている。
……Ted Eguchi先生はリサが目が見えないという設定をすっかり忘れてたのではないだろうか?
2.3 Is this book useful for learning English?
本書の英語レベルは中学生~高校生レベルのものであり、中学生レベルの英文読解能力があるのならば詰まることなく読めるのではないかと思われる。
物語面では単調で話が素っ気なく終わってやや物足りない印象はあったものの、英語の勉強用の教材としてはなかなか役に立つのではないかと感じた。
本書は平易な英語で書かれているため、英語の文法の基本がある程度頭に入っていればスラスラと読むことができる。そして平易な文章でもしっかり物語中の描写が書けているという点で、英作文の参考にもなるかもしれない。
本書は読み進めることで、「俺って英語読めるじゃん!」って錯覚するくらいの気持ちいい難易度である。そして、文章中の単語やイディオムについてはページ下に書かれているため分からない単語などがあってもすぐ調べられてストレスは少ない。
本書の後半部分には日本語訳がきっちりついているため、英語で読んだ部分の理解が間違ってないかを確認することも可能だ。
そして、本書は英語教材なのでホームページから音声ファイルをダウンロードすることができる。普通の英語音声だけでなく、日本語訳の音声も入っているところが少し珍しいポイントだろうか。耳から英語で物語を聞くことによって、より英語に慣れ親しむことが可能だろう。
一つ残念な点があるとすれば、予算の都合だろうか、英語の音声は女性のナレーター一人が読んでいるだけのところだ。
せっかくの小説なので数人で声を回して欲しかったと思ってしまう。そして日本語訳の音声は男性ナレーターが一人で読んでるためリサの声はオッサンである……。
3. Conclusion
本書を読み終えて、英語の教科書に載っているような話をよりカジュアルに面白くしたという印象がある。
とはいえベースはあくまでテキスト寄りであり、中学~高校英語で読めるシンプルな文章である以上、話の面白さにはある種の限界があろうと思われる。
一方で、英語を学ぶという目的からしたら読みやすくてよくまとまっていて、シャドーイングなどにも使える良い文章ではないかと思う。さすがは受験英語のプロが書いた英語だと素直に感動した。
中学英語はある程度わかってるくらいで、英語に触れて勉強したいけど重い腰が上がらない……という人は買ってみるとなかなか役に立つかもしれない。
英語がある程度できる人もシンプルな英語でここまできちんと物語が書けるんだ、という視点で学びはあると思うが定価で買うほどではないと感じた。
また、本書は『英文多読シリーズ』の第一作目であり、調べた限り他にも安河内氏が執筆した英語の小説が数冊刊行されている。
このシリーズに関する安河内氏の言葉を見ると、採算を度外視してどんどんシリーズを増やして普及させていきたい、100冊以上を目指している、といった旨の紹介がされている。そしてフォーマットを指定して他の執筆者にも参入してもらう狙いもあったようだ。Amazonの本紹介ページよりそのフォーマット例を引用する。
【B6の判型、5,000~8,000ワードの単語数、紙の種類の調整により約1センチに束を調整、同ページ語句注付き(反復語彙もあえて掲載:品詞・語句の頭を縦列で合わせる)、無料プロ音声ダウンロード(英・日・英日・日英)、語彙レベルの制約、日本のプロイラストレーターによるイラスト、価格の最小化、1ページの行数を10行で統一、カバーを取るとペーバーバック風になるデザイン等。】
英語を普及させる意味で、この英文多読シリーズは野心的な試みであったと言えるだろう。
しかしながら2013年の秋を最後に、どうやら英文多読シリーズは止まってしまっている。他の執筆者が英文多読シリーズに参入したということもないようだ。英文多読シリーズは育ちきる前に出版界から淘汰されてしまったらしい……。
面白い試みではあると思ったので、ぜひまたTed Eguchi先生の復活を期待したいところだ。
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さて、来週は一昔前にちょっとだけ炎上してネットニュースになったとある芸人のグルメに関する本である。
このフレーズだけでもしかしてあの本か?と察する方がいたら、あなたはきっとブックオフ珍書発掘隊としての素質があると思う。
To Be Continued...