孤独な弧度法

ブログのタイトルは完全に語感だけで決めました。そこそこ良いブログ名だと自分では思っています。

バクマン。勝利学 【ブックオフ珍書発掘隊 その2】

ブックオフ珍書発掘隊!!

 

 

どの世界にも、『他人の褌(ふんどし)で相撲をとる』という行為が存在する。

友達の友達が芸能人だという薄い自慢をするやつ、親が政治家だから何故か偉そうな子供、先輩の残したデータで卒業する大学生……。

他人の実績を看板に掲げて勝負をする人間は至る所に生息している。

 

そして、出版界にも他人の褌で相撲をとるジャンルの本があることをご存知だろうか?

今回発掘したのはそういったジャンルの中に埋もれていた珍書である。

 

 

 

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バクマン。勝利学/門脇正法 著

集英社インターナショナル

2011年1月26日発売

購入価格:210円(定価1200円+税)

 

 

珍書度:★★

内容のまとも度:★★

お勧め度:★

「本気」の乱用度:★★★★★★★★

別にバクマン。じゃなくても良い度:★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

原作へのリスペクト度:

 

 

 

本発掘録の目次:

 

 

 1. なぜ本書を選んだか?

書店を物色していると、漫画などのノベライズコーナーの横に『〇〇から学ぶ成功論』『〇〇名言集』『〇〇考察読本』などといった、特定の有名漫画(ワ〇ピースとか進〇の巨人とか……)を題材にした小判鮫のような本を見かけたことがないだろうか?

あの手の元の漫画ありきの書籍は、まさに出版界にはびこる『他人の褌で相撲を取る』ジャンルの代表格といえるのではないか。そして、実際に買ってる人を見たことがなければ読んで面白いと言ってる人も見たことがない。

 

もしかしたらこの手の、「原作漫画読み直した方がいいじゃん」で片づけられてしまう小判鮫本の読者などこの世に存在しないのではないか。

そう思うと発掘調査をせずにはいられない、そう思い立った次第である。

 

 その中で、なぜ〇ンピースとかの有名漫画の小判鮫本ではなくてバクマン。を選んだのか?

それはずばり、著者の経歴である。

 

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男なのに女子大の修士号!!!???

 

 

 

2. 書評

2.1 本書の概要 

 本書は、かつてジャンプで連載されていた人気漫画『バクマン。』にあやかった本である。

バクマン。とは中学生のサイコー(真城最高)とシュージン(高木秋人)がコンビを組んでジャンプの漫画家を目指して頑張るという漫画業界を舞台にしたある種メタ的な要素を含んだ少年漫画である。2008年~2012年まで週刊少年ジャンプで連載されていた。

DEATHNOTEと同じ作者コンビが手掛けた作品であり、非常にスピーディーかつ熱い展開、個性的なキャラクター、漫画家という職業の持つ厳しさ、どう考えてもおもんなさそうなダサいタイトルの作中漫画(亜城木夢叶というペンネームもかなりダサい)、唐突な打ち切りエンドで人気を博し、アニメ化もされた人気漫画である。

 

バクマン。本編の内容について詳しく知りたい方はぜひ原作を読んで見てほしい。これから紹介する本とは違って読んで後悔はしないはずだ。

 

 

さて、原作漫画の内容を踏まえて、本書の概要を紹介しよう。

 

少年ジャンプ内のスポーツコラム「ジャンスタ」を担当するスポーツ記者の著者が、トップアスリートの発言と『バクマン。』の内容の共通項を取り上げて『本気』の重要さを訴えかける1冊である。

本書の中では北島康介室伏広治長友佑都選手など様々なスポーツのトップアスリートのインタビューの言葉が引用されている。

 

世界レベルのトップアスリートがオリンピックや世界大会前にどんな心境で、どんな言葉を言っていたのか。

本書を読むことで、アスリートの見せる『本気』がどういうものか明らかになることだろう。

 

 

 

2.2 別にバクマン。じゃなくてもよくない?

懸命な読者諸君なら、前節の概要を見た時点で何となく察したかもしれない。

 

 

「別にバクマン。関係なくね??」

 

 

そうなのである。

 

本書の内容は別にバクマン。じゃなくてもいいのである。

本書の主な流れは、作中でバクマン。の作中キャラの台詞や感情表現から伝わるシーンを切り出して、これと似たようなことを〜〜というアスリートが大会前のインタビューでこう言ってた……と無理やりスポーツ関連に話を持っていくというものである。というかほぼそれしかない。

 

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バクマン。のシーンの切り抜きと共に下に著者のコメントが添えられている。この後にアスリートのインタビュー内容の引用が続くという構成になっている。

 

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↑本書で取上げているアスリートが最初の方にダダっと紹介されている。バクマン。の看板を借りてアスリートの言葉を届けるにしてももっと人数を絞れなかったのか。

 

本書を注意深く読み進めていくと、『バクマン。→スポーツ』という論理展開ではなく、まずアスリートのインタビューでの言葉がスポーツライターである著者の引き出しにあって、それに似てる雰囲気の台詞をバクマン。から適当に拾ってきているという構造になっていることに気づくだろう。

本書はタイトルにデカデカと『バクマン。』って書いているが、実際は著者が取材したアスリートのインタビューで言っていた言葉がメインなのである。

本書におけるバクマン。要素はジャンプ読者をつなぎ止めておくための鎖……いや、それにしてはあまりに弱すぎるから仮止めテープに過ぎない。

本書の内容は題材がバクマン。じゃなくてヒカ〇の碁だったりワンピ〇スだったり、王道少年漫画的な展開の作品であれば大体成り立ってしまう(流石にDEATHN〇TEでは無理だろうが)。

アスリートのインタビューに漫画を関連づけて考えるのであれば、明らかにスポーツ漫画と結んだ方が相性がいいのは明白である。少なくとも『バクマン。』でないとこの本が書けないという内容では到底なかった。

 

あくまでアスリートのインタビュー内容が先に用意されており、バクマン。はジャンプ編集部に本書の企画を通すための通行証に過ぎなかったような印象を受ける。

その意味ではこの著者は七峰透などのバクマン。に出てくる悪役よりもよっぽど狡猾であるかもしれない。

 

 

 

2.3 『本気』の乱用はお止めください

 本書の詳しい内容に移ろう。

本書を読んでいると、しきりに『本気』という単語が登場する。というか、本書の書き出しや目次からしてこれである。

 

 

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冒頭の書き出しから香ばしい臭いがプンプンしており、まともなバクマン。のファンならこの時点で立ち読みしていた本書をそっと本棚に戻すことだろう。

目次にズラっと並ぶ赤文字の『本気』は、どことなく宗教っぽさを感じさせる。

 

しかし考えてみてほしい。バクマン。の魅力を語る上で『本気が~~』みたいな精神論(熱血要素)でチョイスする人をあまり見たことがない。もしかしたらこの著者はかなりバクマン。を読み込んで考察しているのではないか?

 

そう思って本書を読み進めていくと、残念ながら全然著者は『本気』でバクマン。を読んでいないことが浮き彫りになってくる。というか、アスリートのインタビュー本としてもかなり内容が薄い。その要因としては、前述した通り、あまりに取り上げるアーティストの数が多すぎることが考えられる。

本書では『本気』という単語を、「目標を言葉にし、具体的な行動を起こし、目に見える結果を出す」という風に定義している。

そして読み切り連載、新人賞、そして打ち切りなども経験しながら連載を勝ち取っていくバクマン。の主人公らとアスリートのインタビューから浮かび上がる『本気』というキーワードでむりやり結びつけて論じている。

 

が、その方式を取るのであれば、前述したとおりジャンプ内に多数存在するスポーツものの名作漫画を題材にした方が明らかに相性がいい。

本書では様々なアスリートの様々なインタビューが散らかっているため、せめてアスリートの人数を絞り込んで一人一人を掘り下げて論じた方が本としての完成度は高くなっていたのではないだろうか。

 

バクマン。内のシーンだけで、沢山のアスリートのインタビューでの言葉に共通する本質を洗い出そうとした結果、誰でも言ってるようなスポーツマンの精神論の上澄みのみが抜き出されてしまい、結果として薄味極まりない1冊になっている。

この本は新品だと1200円+税だが、得られる内容はYahooニュースに乗ってるスポーツ選手のコメントとあまり変わりがない。それならば400円程度のバクマン。の原作を3冊買って読んだ方がコスパがいいだろう。

 

本書にはその薄い内容とはまた別に、引用の形式も非常に気持ち悪いという問題点がある。

 

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アスリートのインタビューの時は普通の文章なのだが、バクマン。から台詞を引用する時は原文が長いからか、一々スラッシュ(/)が入っていている。

何故バクマン。内の台詞を音節ごとに区切っているのかはわからないが、もしかしたら著者は学生時代オノマトペ自然言語処理の研究をしていたのかもしれない。

 

 

 

3. 総評

単独ではアスリートのインタビューの本を一冊を出す知名度あるいは実力のない著者が、『バクマン。』の看板を借りて何とか一冊の本を出すことに成功した。

 

そう邪推してしまう一冊であった。せめてスポーツ漫画の看板を借りるべきだっただろうが……。

きっとこの本は、アスリートのインタビュー内容はそのままにバクマン。を取り上げる部分を任意の漫画の適当なシーンに付け替えればそっくりそのまま成り立つだろう。バクマン。の原作者二人はこの本をどんな気持ちで読んでいたのだろうか……。

 

本書中で湯水のごとく使われている、アイドルの『好き』よりも薄っぺらい『本気』を感じたい人は読んでみてもよいかもしれない。この本のリンクを貼るのは何だかなと思ったので、原作の『バクマン。』のリンクを貼っておく。バクマン。は普通にめっちゃ面白いです。

 

 

[http://:title]

 

 

それではまた一週間後を目途に、違うジャンルの珍書を発掘したいと思う。

発掘調査の中で、思っていた以上にこの世の中には需要のわからない『珍書』が多数存在していることに驚くばかりである……。

 

 

To Be Continued...